Stationhopper@北海道

futamata地方のJR線の無人駅で普通列車に乗るとかなりの確率で鉄道マニアな人々に出くわす。大体、一目で分かるものだ。乗車する必然性の雰囲気が感じられないからだ。北海道の無人駅で飛び切りのマニアに遭遇した。
無人駅のプラットホームにいたのは私とHさんと2人だけ。私はと言えば、秘湯から旅館の車で最寄の駅まで送ってもらったのだからこの無人駅から乗る必然性はある。しかし、Hさんは、一体どこからこの無人駅に現れたのかさっぱり分からない。誰か近所の人に送ってもらったのなら、列車が来るまで見送ってもらえるはずだ。まるで突然、何の脈絡もなくこの駅に瞬間的に出現したかのようなのだ。
2人きりで列車を待つのでつい話をするようになる。聞くと、何のことはない、直前の上り列車でこの駅に着いたばかりで、これから下りの列車に乗るのだという。「この駅は降りるのが初めてなので降りたんです。今度は次の次の次の駅で降ります」。つまり、JR全駅制覇の途上なのだ。JR全線制覇というのはよく聞く話だが、全駅制覇なんて目指している人がいるとは思わなかった。そんなことしている人はHさんだけかと思ったら、既に全駅制覇達成した人がいるのだという。切符は普通列車なら乗り放題の「青春18きっぷ」だ。
なぜ「今度は次の次の次の駅で降ります」かと言えば、その駅で降りれば、我々がこれから乗る下り列車はその次の駅で上り列車と交換し、ほとんど待つことなくその上り列車に乗れて次の「獲物」を目指せるからだという。
列車本数の少ない北海道では、一駅ごとに順番に乗り降りしていたら、ほとんどが待ち時間になってしまい、ダイヤとにらめっこして同じ線路を行ったり来たりして乗降する駅だけ変えていくのだという。
恐ろしく根気のいる作業だ。こうして学生時代を含めて30年近く、今ではJRの全国の駅の8割を制覇したのだという。サラリーマンしながら。
やがて列車はその駅に着き、別れの挨拶を交わしてHさんは下車した。
ところが、列車が時間調整で10分ほど停車していたら、Hさんはまた列車に乗り込んできた。「ちょっと方針変更です」という。
「ええ? これでこの駅制覇したことになるんですか? プラットホームに降りただけじゃないですか」と私。
「こんなに停車するとは時刻表見ても気付かなかったんです。改札口出て戻って来れましたから大丈夫です」。
改札口は遠くに確かにあったが、所詮無人駅の駅員のいない改札口って改札口と言えるのかどうかはともかく、Hさんの定義では、短時間といえども改札口を抜けてさえいればたとえ同じ列車で再出発してもOKなのだという。逆に分岐駅で列車を乗り換えても、改札口をいったん出なければその駅を「制覇」したことにはならないのだという。
マニアがマニアたるには厳しい自己規制が必要らしい。いい加減だとマニアがマニアでなくなるのだ。
「みんなからバカなことやっているよと言われますけれど、駅をどう能率的に制覇するか考えるのが楽しいんですよ」。およそ能率の彼岸にあるようなことしていながら能率的も何もないと言うものだけれど・・・何か鉄道を使って囲碁か将棋をやっているような雰囲気だ。
ちなみにHさん、駅制覇に忙しくてこれまで北海道に10度ほど訪れたが観光地も見学したことないし、温泉に入ったこともない。フツーの鉄道マニアのように列車の写真を撮るわけでもない。ただ記録をつけているだけだという。
結局、私の方が先に降りる羽目になりHさんと別れた。Hさんは次のターゲットに向かってその列車に乗り続けた。
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