不都合な真実

inconvenient truth「こんなに分かりやすく説明しているのに分かってくれない」。アル・ゴアが呟く。映画「不都合な真実」は人々の思い込みと戦うアル・ゴアの物語でもある。
少年時代のエピソードとして、南アメリカ大陸の東岸とアフリカ大陸西岸の形状が似ているのに気付いた級友が先生に「かつては一緒だったんですか?」と尋ねると、先生は「もちろん、そんなこと有り得ない」と一笑した。その後、少年は薬物中毒になり、先生はブッシュ政権の諮問委員になったとか。
大陸移動説はとうの昔の1912年にアルフレート・ヴェーゲナーに唱えられていたが、当初は学界でも嘲りの対象で、認められ始めたのは1950年代からだ。このエピソードもちょうどその頃で、まだ先生の耳には入っていなかったのだろう。
で、その思い込みをアル・ゴア氏が利用したのは気温と大気中の二酸化炭素濃度のグラフなのだが、これはちょっと寒い。地球温暖化懐疑派にしても、両者の相関性は認めているはずだ。問題はどっちが先かということで鶏と卵の問題だ。懐疑派は気温が先に上昇し、気温が上昇したから海水に溶けていた二酸化炭素が大気中に放出された、氷河期にも地球温暖化はあったと主張する。ゴア氏はこう言えば良かった。「氷河期に産業革命は起きていなかった」と。条件の全く違う温暖化を比較しても無意味だと。
それから北大西洋におけるメキシコ湾の沈下がなくなりつつあることで北極が急激に寒冷化する説も紹介していたが、ちょっとぼかされていた。北極の氷がなくなっていることを紹介した後で、こんな説を紹介すれば、観ている人はワケワカメになる。湾流が遮断されるためには、Lake Agassizのような巨大淡水湖の決壊が必要だが、そんな湖は現代に存在しないとまでは、映画でも言っていた。しかし、その後のフォローはなく、なんとなくグリーンランドの氷河を暗示しているだけ。氷河の崩壊と淡水湖の決壊では、スピードとスケールが違い過ぎる。現実には、メキシコ湾流は温暖化のために沈降海域が北上し、北極海にまで達するだろう、と言っておけばよかった。
その他の点では、文句の付けようもなく分かり易かった。特にゴア氏が巨大スクリーンをはみ出て上昇する近未来の二酸化炭素濃度を描くためにリフトに乗って上昇する姿はいい演出だ。その姿はユーモラスでさえある。
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