分かりにくいIPCC第四次評価報告書

公表されたIPCC 4th Assessment Report:(AR4)Summary for Policymakersを読むのに苦労した。今世紀末(2090-2099)の世界の平均気温はbest estimateベースで1.8-4度上昇すると予測、前回の3rd Assessment(TAR,2001)の2.0-4.5度よりも洗練させて修正したが、拠って立つベースが違うのでthey are not directly comparable(直接比較できない)と断っているからだ。
レポートでは、
The AR4 is more advanced as it provides best estimates and an assessed likelihood range for each of the marker scenarios. The new assessment of the likely ranges now relies on a larger number of climate models of increasing complexity and realism, as well as new information regarding the nature of feedbacks from the carbon cycle and constraints on climate response from observations.
と、likely rangeベースの評価法もより多くの情報、モデルを基により洗練したようだ。大雑把に解釈すれば、情報、モデルが増え、評価法が洗練された分、可能性の範囲は広がる一方、妥当予測であるbest estimateの範囲は確度が高まって狭まったということか。
ちなみに、池田信夫氏は例によって、日本のマスメディアの一部が強調している最悪の最悪のケース、プラス6.4度予測を「デマゴギー、捏造」という次元の低いレベルで決め付けているが、もちろん、捏造ではなく考慮すべき可能性だ。
なぜなら、その最悪のシナリオA1FIというのは、
very rapid economic growth, global population that peaks in mid-century and declines thereafter, and the rapid introduction of new and more efficient technologies(A1)+fossil intensive(FI)(page18)
だ。簡単に言えば、高成長+化石燃料集約型だ。言い換えれば、
最悪のシナリオとは現状のまま進んだ場合という、現状では最も有り得るシナリオ
ということだ。なぜなら現状こそ基本シナリオとすべきで、それ以外は未来の多かれ少なかれ希望的観測が入ったシナリオだからだ。もし、A1FIをもって最悪シナリオとするなら、更に超最悪シナリオとか極最悪シナリオとかも作らなければバランスを欠くというものだ。一部で過小評価という声もあるのもこのためだろう。
spmそもそも「1.8-4というbest estimateが公式の予測とされ、それ以外の極端な数字は欄外の参考データである」(池田信夫blog)こそ正真正銘のデマゴギーで、欄外というのはpage14のグラフ(←)のことで、見れば分かる通り、「欄内」に描けば、分かりにくくなるに過ぎない。もちろん「欄内」だけが公式の予測ではなく、本文のpage13にはちゃんとbest estimateとlikely rangeは並べて記載されており、どちらも公式なものだ。素人相手とたかをくくり、トンデモなく酷いことを書く人がいるものだと呆れてしまう。正に「地球環境危機ないない大事典はこうして偽造される」のだ。これはもう、確信犯かただの阿呆かどちらかとしか言い様がない。
予測気温上昇の今回と前回をbest estimateベースで単純比較するとはB1 scenarioで1.8度(前回2.0度)(以下同様)、A1T scenarioで2.4度(2.5度)、B2 scenarioで2.4度(2.7度)、A1B scenarioで2.8度(2.9度)、A2 scenarioで3.4度(3.8度)、A1FI scenarioで4.0度(4.5度)と、いずれも前回の予測を下回っている。
但し、前回は2100年予測、今回は2090-2099年予測だ。より詳細な数値が表示されているこちらの表の2090年と2100年の平均だと、前回の予測は、B1で1.9度、A1Tで2.5度、B2で2.6度、A1Bで2.9度、A2で3.5度、A1FIで4.3度になり、幅は1.9-4.3度に下がる。
更にThe updated 100-year linear trend (1906–2005) of 0.74 [0.56 to 0.92]°C is therefore larger than the corresponding trend for 1901-2000 given in the TAR of 0.6 [0.4 to 0.8]°C.
とあり、比較する現在気温自体が0.1度ほど上げられているようだ(詳細は不明)。これらを考慮すると、事実上前回の予測とほぼ変わらないbest estimateの数字が出たようだ。
それにしても極めて分かりにくい。likely rangeだけ見ると、Max6.4度にもなり、前回の5.8度を上回っている。BBCの記事を読むと
They projected that temperatures would probably rise by between 1.8C and 4C, though increases as small as 1.1C (2F) or as large as 6.4C (11.5F) were possible.
In 2001, using different methodology, the numbers were 1.4 (2.5F) and 5.8C (10.4F).

と、前回はlikely rangeのみ、今回はbest estimateとlikely range両方を紹介しており、読者を戸惑わせる。メディアも混乱しているのかもしれない。今やIPCCレポートは世界のメディアが注目している。専門家グループはもっと素人にわかりやすいレポートを書く配慮をすべきだろう。
ちなみにそれぞれのシナリオの定義も極めて抽象的で、違いが実感できる代物ではない。予測ではなく、これまでのデータでは確実に温暖化の加速が示されているのだから不確かな予測はあまり強調されるべきではないだろう。
一見分かりやすいのは、多くのメディアで強調された「原因は人間活動とみてまず間違いない」(朝日)がVery likely>90% probability of occurrence(page4)というようにまるで株式投資格付け機関のような評価の方法だ。ちなみにVirtually certain>99%、Extremely likely>95%、Likely>66%、More likely than not>50%、Unlikely<33%、Very unlikely<10%、Extremely unlikely<5%となっている。なぜ90%以上なのかは分からない。本来なら地球温暖化は人為的によるものと定義されるべきでconstantly 100%としなければならないのだが。こういう曖昧表現が、却って残りの10%未満を懐疑派に塩を与えることになり、誤解の連鎖、さらには悪質なデマゴギーがなかなか断ち切れない遠因になっている。[2/5大幅加筆]
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