映画「叫」

sakebi「叫」(黒沢清監督)に叫びは必要ない。叫ばなくても、叫びたくなる。これは過去からのテロリズムなのか。
東京湾埋立地は繁栄する東京の裏側であるらしく、産廃の捨て場のような、過去にあったが今は捨てられてしまった未来の夢の残骸のようなところとして描かれている。
自然に夢の島という言葉が思い出され、そこで起きる夢のような連続殺人。捜査する刑事吉岡(役所広司)は、とっくに壊されてなくなっていていい筈の1960年前後に建てられたような鉄筋アパートに住んでいるが、彼自身がアナーキーなホームレスの雰囲気を漂わせている。彼も「残骸」の側にいるのは明らかで、だからこそ「あなただけは許してあげる」になるのだろう。
なぜかみんな海水を飲まされて殺されることからも、この映画の奥底にあるテーマは埋め立てられて失われた海、あるいはそれが象徴するものたちの叫びであることが推し量れる。
赤い服の女(葉月里緒奈)とは決して一緒に出て来ない、今がよければ後はどうだっていい、という無目的な風情の春江(小西真奈美)(彼女はその今を奪われた人間だ)が最後で一番大きく叫ぶ。しかし、その声は無言の湾岸の風景に吸い込まれて聞こえることはない。小西はTVCMでは日常的幸福を体現したような印象があるだけに余計に切なさを増す。監督はそれも計算したのだろうか。
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