女帝エンペラー〜官僚だけは死なない

banquet←赤い花びらで満たされた屋内プールのような豪華風呂。それは血で染められた欲望の色――チャン・ツィイーが血のように美しい風呂に飛び込む姿はこの映画を凝縮したシーンだ。
原タイトルは「夜宴」(The Banquet)。邦題は女帝なのになぜかエンペラー。
「跪くべきか跪かれるべきか、それが問題だ」という台詞が出て来る。これはシェークスピアの「ハムレット」の翻案なのだ。むしろ、殺すべきか殺されるべきか、それが問題だ、という風情がある。
中国映画ではお馴染みの空中舞踊的立ち回りはここでもふんだんに使われている。そして、殺し方も、殺され方も舞踊的で京劇ってこんな感じなのかと思う。情念、欲望が交錯した殺し合いもお約束事のようなアートだ。
先帝が殺され、家来が殺され、恋人が殺され、皇帝が殺され、皇太子が殺され、そして最後には女帝も殺される。
しかし、最後まで死なない者が1人いる。いつも冷静に、事務的に、機械的に、感情を持たず粛々とことを進める人間。内侍官だ。
夜宴で皇帝が死ねば、「皇帝崩御」と粛々と告げ、すぐに皇太子も死ぬと、やはり高らかに「女帝万歳」とまるで式次第を読み上げるように宣言する。惨劇の中でのその滑稽なまでの四面四角。
黒子のように目立たないが、まるでこの男が全てを仕切り、全ての人間を操り人形のように動かしているように見える。最後に全ての欲望を手に入れたと思った女帝を殺したのはこの男、あるいはこの男に指示された者なのではないかだろう。
夢も情熱も愛憎も欲望も持った人間は全てが紅蓮の炎のように燃え尽きて消えたが、感情を持たない官僚だけは生き残った。日本の官僚も中国の官僚制を真似たものだから同じようにしぶとく生き残る。考え方次第では中国政府へのあてつけのようにも読める、何かそんな別の隠されたモチーフが感じられるラストだった。
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