メルケル提案は温暖化を加速させる

温暖化いろいろ:メルケル独首相の「一つの大気」提案で紹介されていたエコビレッジへの旅:壮大な温暖化阻止の原則を読んで少し暗澹たる気持ちになる。これじゃ地球温暖化を加速させるようなものだ。
メルケル首相によると、最善の方法は、温室効果ガスの排出許容枠を設けたうえで、排出権の取り引きを世界中で行えるようにすべきだという。そして排出権取引の原則はシンプルなもので、人口に比例させて各国の排出許容量を割り当てるべき、と主張している。いたってシンプルな考え方である。
確かにシンプルだけど、シンプル過ぎる。これはもちろん、メルケル首相が考えたものではなく、もう20年近く前から議論されてきたアイデアではある。それはともかく、実施したらどうなるか、簡単な思考実験。
世界人口は現在ベースで67億人。そのうち中国が13億2000万人、インド11億7000万人。なんと37%がこの二大人口大国で占める。ということは、この両国が排出権の37%を得ることになる。そして、この両国は現在もっとも経済成長が大きく、世界の工場と化しつつある。そこに排出権という“補助金”が得られれば、世界は地球温暖化抑制どころか日に油を注ぐことになる。ありとあらゆる製造業が両国に殺到し、補助金を得ようとするだろう。それは両国の1人あたりの二酸化炭素排出量が先進国並みに多くなるまで続くだろう。いわば排出権売買というのは、二酸化炭素裁定取引なのだから。
その暁には世界はもうどうにもならないくらい温暖化が進んでいるだろう。
2000年の日本人1人当たりの温室効果ガスの排出量は約9トンであるから、目標に到達するには約80%の削減が必要になる。なおアメリカの1人当たりの排出量は約20トンで、ドイツが10トン、中国が2.5トン、インドが1トンである。先進国にとっては非常に厳しいハードルであり、途上国にとっても簡単に達成できるものではない。
EUで2050年に排出量半減達成しました。けれどそれは中印両国から買った排出権で達成されたものです。実質ベースでは増えてました。もちろん、中印両国では排出量が倍になり、中国は1人あたり5トン、インド2トンにまで増えました。中国はもう欧米並みになったので、これ以上、排出権を売りつけるのは無理ですが、インドはまだまだ余裕があります。人口の絶対数がを考えれば、排出量は膨大なものです。
もちろん、現在の世界年間排出量230億トンを115億トンに減らすことを前提に割り当て排出量が配分されれば、そんなバカなことにはならないのだけれど、現実問題としてそんなバカなことになる確率の方がはるかに高い。2050年までに半減を達成しようと思えば、今から始めても、排出削減率は毎年マイナス1%ぐらい必要だ。
こうい現実的にかなりの無理を強いられる状況で国や企業はどういう行動を取ろうとするかと言えば、排出権を割り当て以上に買うしかない。どういうことかと言えば、現在の排出権だけでなく先物取引で50年後、100年後の排出権までも買って帳尻合わせし、問題を先送りすることだろう。
つまり「目標115億トン」が税収とすれば、税収で足りない分、「国債」で補い、次世代に先送りする。どこかの国の財政状況を考えれば分かることだろう。その国の国債残高は800兆円で、国家予算の20倍近くにもなる。その借金で無駄な箱物や道路が作られたわけだが、この排出権の場合、新興国に投資されるのと同じで、投資のリターンが続く限り、「借金体質」は直らないだろう。
2050年、名目上は「115億トン」達成できたけれど、その大部分は更に未来に先送りされていました、というのがオチだろう。得するのは、新興国に利権を持つ企業と排出権市場のトレーダーだけだろう。
副作用もあるだろう。排出が制限されるなら、制限対象にならない森林が今以上に恐ろしい勢いで伐採されて環境破壊も促進され、薪炭バイオ燃料に変わるだろう。
メルケル首相のような基本的に素人な人が発案すると影響力あるだけに後で大変なことになる。
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