潜水服は蝶の夢を見る

潜水服ジャン=ドミニック ボービー原作、 ジュリアン・シュナーベル監督、マチュー・アマルリックマリー=ジョゼ・クローズマックス・フォン・シドー。原作者の実体験に基づいた映画で、本来なら「潜水服」というより「潜水鐘」。英訳はDiving Bellだ。最も原始的な潜水装置で、潜水服のような自由度すらない。
映像は水中にいる人間が感じる視界と同様、ボンヤリしている。潜水鐘で独り言を言ったら、自分にはやたら大きく、増幅されて聞こえるものだ。それが却って自意識を過剰に感じさせる。しかし、相手には通じない。
マリー=ジョゼ・クローズ頭脳は働いているのに体が動かない閉じ込め症候群(Locked-In syndrome)に罹った主人公は左目のまばたきだけで、頻出度合から最も効率的に並べられたアルファべットを選んで「死にたい」と意思表示するが、受け取った言語療法師は悲しみ、泣く。演じるマリー=ジョゼ・クローズはあまた出ている女優陣の中で一番惹かれる。
主人公はまるで人間に意志を伝えようとする原始的コンピュータのようで、0か1かのように答える。データベースは無限大にあるというのに。このストレスは想像を絶し、その分、想像力は蝶のように飛翔する。
主人公の、左目だけがギョロリと目を剥く顔はジャン・ポール・サルトルのひんがら目を思わせる。そこにある実存とは一体何なのか。「人は人として生まれるのではない、人になるのだ」としたら、人になった後の主人公の状況は不条理そのものだ。たまたま航空機の席を譲った相手がハイジャックに遭い、中東で何年も拘束され、主人公を見舞いに来るシーンなど、不条理がこの映画の隠されたテーマということを伺わせる。
氷山崩落が幻想の中で描かれているが、これを時間的に逆転させた映像がエンドロールで流される。地球温暖化阻止!? と関係するのかしないのか、地球温暖化対策が「頭脳は働いているのに体が動かない」の不条理的表現としたら、フランス人のユーモアはなかなかのものだ。
ちなみに主人公が行った場所にルルドがある。
洞窟から湧き出す「聖なる水」で病気や身体の障害が治るというので、非キリスト教徒を含めて毎年数百万人にのぼる巡礼者が世界中からこの地を訪れます。
とのこと。日本にも長崎・五島列島井持浦天主堂・ルルドがある。随分前に行ったことがある。
映画ではその牧師が、街で土産物を売っているシーンがあるし、「ルルド」の最初の音、「L」が発音できればしゃべれるようになると、言語療法師に言われるが、発音しかけた途端、それは肺炎の症状と分かり、主人公は死亡する。宗教の否定とも取れそうだ。 
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