トウキョウソナタ

tokyosonata公式サイト黒沢清監督、香川照之小泉今日子小柳友井之脇海井川遥津田寛治役所広司児嶋一哉キョンキョンが見つめる海。日が昇る前のキョンキョンの瞳や前歯は、暗い海の青に反射した月の光に映えてまるでゾンビのように、異様だが美しくラピスラズリ色に輝く。
やがて日が昇り、凍りついたキョンキョンの顔に次第に血の気が戻るのも光のグラデーションで表現される。
取ってつけたような役所広司の強盗の役回りはただただキョンキョンをこの海に連れ出すためだけであるかのようだ。キョンキョンを「引っ張って」くれたのが自暴自棄な強盗というのも皮肉だ。実は強盗に押し入られる前に夫の香川照之自身がリストラされた日に強盗のようにコソコソ窓から家に入っている。そして、なぜか、強盗が取るべきはずの札束の入った封筒を清掃員になった香川が拾っている。
作業着姿で妻とばったり遭って何が「違う!違うんだ」なんだろう。もう妻はとっくに知っているはずだし、香川だって妻が知っていると知っているはずなのに。ここらへん分かりにくいのはキョンキョンの現実からの脱出願望が入り混じっているからだろうか。役所広司の強盗は、夫の分身のようであり、本人と分身が錯綜して夫の「違うんだ」という台詞につなげられているようにも見える。キョンキョンは役所の強盗のようなやぶれかぶれの突破力を望んでいたようにも思える。
ひき逃げされ、枯葉の吹き溜まりの中に倒れた香川照之。作業着が保護色になって誰も気付いてくれなかったようだ。まるで、香川自身が落葉に成り果てたような姿。総務課長さんという「特長」のなさがそのまま重なってしまいそう。
香川と同じく失業した同級生の振る舞いも債務超過を誤魔化すための一人粉飾決算のようだが、妻にも娘にもとうに見抜かれている。けれど、馴れ合って、互いに知らない振りをしあうともうどん詰まりしかない。
アメリカの軍隊に入隊した長男。米軍が外国から兵を募ったのは、ひとえに増え続ける自国民の戦死者を少なくして世論の反発を避けるためだ。言わば戦死者の下請けだから、長男は間違いなく合格し、すぐに一番戦死する確率の高い場所に送られるだろうと見ていたら、案の定、すぐにイラクに派遣される。長男は米軍の方針転換で戦死する前にアメリカに召還される。母への手紙で「アメリカは自分の思っていたような国ではなかった」と記しているが、多分、勘違いに気付いたのだろう。
ラストで次男がピアノ演奏するドビュッシーの「月の光」キョンキョンのあの月の光に映えた美しい瞳と結ばれているようだ。ピアノ習い始めてあんなに早くうまくなるなんて有り得ないのだろうけれど、この曲が美しく奏でなれなければ救いようがない。
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