イキガミ

ikigami公式サイト間瀬元朗原作、瀧本智行監督。松田翔太塚本高史成海璃子山田孝之柄本明劇団ひとり金井勇太笹野高史風吹ジュン。逝き紙という死亡予告伝達人という共通の主役を除くと実質オムニバス風。設定の非現実性はともかく、満開桜を盲目の妹に見せたいために逝ったお兄ちゃんには泣ける。
設定は意外なれど、ストーリー自体にはそれほど意外性はなく、むしろ拍子抜けするくらい。
治安維持法に対する国家繁栄維持法、赤紙に対する逝き紙。監視国家という点で思い出すのは懸垂式モノレールのシーンがたびたび出てくること。これは「華氏451」を意識してのことだろうか。けれども、その割には監視国家との対決は描かれていない。柄本明笹野高史という監視側の人間の演技に深みがなく、いかにも風以上のものがなく物足りない。
普通に考えると血管を循環する時限ナノカプセル、逝き紙を渡された時点で即時に排出手術するような闇の病院が出来ているはず。また誰が「当たり」かを事前に役人が知らせて賄賂を取るなんてこと当然あるだろうさ。また「当たり」を避ける特権的システムもできているはず。ところが、その辺はベタで素朴だ。
大体再三挿入される監視カメラは意味不明。伝達人監視してどうするんだよ。彼らただ通知するだけでそれ以外何もできない。郵便配達人と基本的に同じなのでエリートでもなんでもない。うまく通知しようがしまいが本人は必ず死ぬのだから。それに「当たり」だと1日無料乗車権、1日レストラン無料サービス権って、そんな悠長なことしてられるかよ。
とはいえ、全体には一見、戦前戦中の赤紙隣組という監視社会を風刺しているように見えても、実際には、若者が定職に就けず犠牲になり、年配者の既得権が保護されているという現代の経済的鬱屈が形を変えて描かれているのだと思う。その無力感も。社会の生産性を上げるために若者を殺すってモロにそうだろう。殺される若者には正規社員はいない。路上ミュージシャン、フリーターなど明らかに選別されて殺されている。
そう考えると、監視される側の方がある面生き生きしていて、変えられぬ運命をなんとかましな方にしようとする意志がある。特に兄妹愛のストーリーはお涙頂戴風は否めなくとも、互助的精神を発揮している。病院あげて1時間のウソは、勘のいい盲目の妹は絶対ウソと知っていて、たとえ押っ取り刀で売店を開いてもそのことに気付いたはずだ。そこまでしてウソがばれないのを防ごうという周りの人たちの親切に応えようと本人は騙された振りすることにしたのだろう。妹が兄に感謝して満開桜を見るシーンが一番感動的。←本当はそれじゃまずいだろう、という気持ちはあるんだけど。
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