池田信夫氏の正社員減らせで非正規増えて失業率減るだろか

YouTube:桜プロジェクト 派遣切りという「弱者」を生んだもの池田信夫 blog:失業は「自己責任」ではないのコメント欄で見つけて観てみた。

その抜粋。
池田信夫「何度も言っている様に正社員1人分の賃金で非正規社員2人雇えるのならネットで1人雇用増えるじゃないですか」
井尻千男「2億とっている人間1人辞めさせて2人雇うかといえば雇いませんよ」
池田「賃金原資を一定として議論しているんですよ」
井尻「賃金原資を一定に仮定すること自体がおかしい」
池田「いや一定なんです。賃金原資は実質ベースで90年から2008年まで見事に一定なんですよ、マクロで見ると

一字一句正確じゃないし、もう1人の人も発言しているが、分かりやすくするため割愛。
池田さんのこの典拠って多分、OECD Economic Surveys JAPAN175ページにあるFifure6.4.Employee compensation by componentのグラフだろう。
確かに実質賃金(real wage)は90年以降ほぼ横這い状態。2007年の日本の実質GDPは1990年比22%も伸びている(国内総生産@wiki参照)にもかかかわらず。つまり、実質GDPとの相対比較では実質賃金原資は18%減っていることになり、そういう意味では横這いどころか大幅に減っている。労働分配率GDPに占める固定資本減耗(減価償却)がバブルやIT投資で増えすぎた影響がまだ残っていることも影響しているようだけれど、(参照)それにしても伸びていない。
Real wages declined during this expansion despite a 14% rise in overtime pay between 2002 and 2007 (Figure 6.4), driven by increased output in the manufacturing sector. The sluggishness of overall wages was instead largely explained by weak gains in scheduled earnings, which are negotiated each year. 製造業の生産増で起きた2002年から2007年にかけての景気拡大期の間、残業代が14%伸びたのに実質賃金は下落した。この停滞はの大部分は毎年労使交渉で決まる定昇がほとんどなかったことで説明がつく。
つまり、賃上げ交渉で労働側が妥協したということだろうか。
ところで、正規社員の比率は年々減っている。176ページのTable 6.1. Employed persons by statusの表を見ると、正社員の比率は1990年の79.8%から2007年には66.3%にまで減っている。それ以前のバブル期でさえ減っていた。ということは、今また殊更正規社員減らせと言わなくても減っていたことになる。
総数で見ると、1990年、正規は3490万人、非正規880万人、それが2007年には正規3390万人、非正規1730万人。これを単位を単純化すると、各々35人対9人、34人対17人だから池田さんの、正社員1人減らして非正規社員2人増やすどころか、1人減らして8人も増やしていたことになる。
増やし過ぎだろが。そりゃあ、雇用がだぶつくわけだ。そうなると、需給バランスで賃金上がらないわけだ。これは恐らく女性の社会進出や高齢化による60歳以上の非正規が増えたためだろうか。
ところで、
the share of non-regular employment has been relatively low and stable at around 20% in the manufacturing sector, which has benefited from the export-led expansion. 製造業の非正規は輸出拡大の恩恵で20%前後で相対的に低く安定していた。
とある。とすると、これまでは製造業への派遣解禁と無関係にそんなに非正規は増えていなかったことになる。ま、請負から派遣への転換はあったにしても。
しかし、金融大震災で出来た労働需要断層で一気にその安定が崩れたのが現状ということになる。
戦後最長の景気拡大期で増えたのは図のように残業代だけで、ボーナスは激減している。その理由は、
bonus payments, which have traditionally played a profit-sharing role in the Japanese labour market, dropped by 3% between 2002 and 2007 despite buoyant profits. Bonus payments have become less important in recent years, falling from 27% of employee compensation in the early 1990s to 21% in 2007, due in part to the increasing proportion of non-regular workers, who generally do not receive bonuses.
つまり、非正規社員はボーナスもらえないから、景気拡大の恩恵にありつけなかった。かといって正規社員も残業代増えた分、潤っただけで、時間当たりの賃金は増えていないことになる。
じゃあ、今後、賃金原資は変わらないとしても、正規社員1人減らして非正規社員2人分、ネットで1人増えるのだろうか。まさか。既に非正規はだぶついていて、派遣切りという形で増えた非正規切りが始まっている。しかも、比較的安定していた製造業の牙城が崩された。団塊世代の退職がピークを打てば、正規社員の自然減にも歯止めがかかりそう。55歳を過ぎると、「専任職」という意味不明な役職を与えられ、社員としての「格」は名目上変わらなくても、給与はガクンと落ちるというシステムももう既に出来上がっている。
となると、今後の予想は、実質賃金原資はトータルでも減少し、「不況下の労働分配率増加」も期待できそうにない。90年代の不況はまだ非正規社員の割合が低く、賃金の下方硬直性があったから労働分配率は上がったけれど、今度はそうはいかない気がする。
若年労働人口少子化の影響で減るだろうが、その分、定年後の非正規も増えるだろうからやはり若者はだぶつく。しかも、定年退職者はスキルあるので、どちらかと言えば有利、その結果、技術の継承が難しくなり、若者の非正規は一生ワーキングプアという形が構造的に出来上がる危惧さえあるようだ。その対処法は実は池田さんの言う通り、ノンワーキング・リッチをなくし、可能な限り賃金原資を他に回すことだろうし、そうすべきだろうが、それでも自ずと限界がある気がする。
ところで、この番組で言及されていた解雇自由、職業訓練というセーフティネットスウェーデン方式だが、スウェーデンの失業率は1997年の高失業率(9.9%)から大きく改善し、2001年以降は4〜5%台の水準で推移。2006の失業率は5.4%(外務省)と低下したが、それでも、こちらを見ると、先進国ランキングでは、2002年22位から2005年17位と、むしろランキング上昇している。これも東欧圏から先進ヨーロッパへの労働人口流入があり限界があったということだろう。
とりあえずの結論:お先真っ暗。上げ底なしの真実の不況が本当に始まりそう。
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