かんぽの宿擁護竹中平蔵氏「機会費用」は正当なのか

「かんぽの宿」一括譲渡「白紙に」 郵政、赤字事業売却仕切り直し(日経) 日本郵政鳩山邦夫総務相が反対しているオリックスへの一括譲渡を断念する方針を固めた。専門家による検討委員会を設けて資産売却の進め方を議論する計画で、1年間かけて進めてきた赤字事業の売却が仕切り直しになり、年間50億円規模の赤字の垂れ流しも続くことになる。政治圧力による経営への介入が強まれば、民間の発想で効率とサービスを向上させる郵政民営化の後退につながる恐れが大きい。
日経はまるで政治介入で民間による効率とサービス向上が阻害されると言わんばかりだけれど、二束三文の叩き売りはスルーという一方的書き方は社説ならともかく一般記事でありだろうか。
恐らく、こうした論調の大元は竹中平蔵氏だろう。その他、こんな記事「かんぽの宿」、民営化5年後の譲渡は「竹中平蔵氏の指示」(日経)もあった。
植草一秀の『知られざる真実』:「かんぽの宿」疑惑新事実とTBS竹中平蔵氏詭弁演説会に貼られていたニコブログ:久米宏のテレビってヤツは!?「私がそんなに悪いのか…竹中平蔵」メモ&感想を読むと、
萩原博子「1万円で買ったものが半年後に6000万円で売れちゃうということ自体がみなさんの理解を超えていると思いますよね」
竹中平蔵「どういうケースなのか分かりません。でも、1万円って言うけど、私の聞いている範囲ではね、一括して買ってもらわないといけないんですね。一括して買ってもらわないと、要するに、いいものは売れるけど悪いものは売れないじゃないですか。一括して買ってもらうと、中にはそういうものも部分的には出てくるかもしれない。個別のことは知りません、私は関わっているわけじゃないから。だから重要なのは、その2000億とか100億とかいう数字にだけ感情的に反発するのは間違っている。出来るだけ高く買ってもらわないといけない。ちゃんとした手続きが取られている、これは重要です。そこを明らかにした上で出来るだけ高く買い取ってもらう」

と言っている。要するに細かいことは知らないけれど、できるだけ高く買い取ってもらったんだと居直っている感じだ。
1月19日の時点で書かれた少し古い論考だが、【竹中平蔵 ポリシー・ウオッチ】かんぽの宿は“不良債権”(産経)では、
第1に、資産価格が落ち込んでいる今の時期に、急いで売却するのは適切ではない。第2に、オリックス宮内義彦会長は規制改革会議の議長を務めており、郵政民営化による資産処分にかかわるのは「できレース」的である。第1の点から見ていこう。こうした発言は、少し前に株式売却に関して首相からも発言されたことがある。しかしこの議論は、経済学の初歩的な概念である「機会費用」というものを無視した、誤った認識と言わねばならない。今のような不況期に資産を売却する価格は、確かに好況期に比べて低くなる。しかし民営化された郵政は、売却した資金を新たな事業資産に投資することになる。その際、そうした投資資産の購入価格も不況期には安くなっている。
と書いている。そもそも鳩山邦夫総務相が反対するのは竹中平蔵氏の言う「第1の理由」ではない。本当の第1の理由は売却価格が不況下でも安過ぎるということだ。第2は竹中氏の言う通りだろうが、竹中氏の挙げる「第1の理由」は第3番目だ。オマケのような理由を第1の理由に挙げて「機会費用も分からんのか」と相手を経済学用語で威圧する論法はよく日本の経済学者が使う手口だと思う。
機会費用というのは時間との関数で、もし、そうだったらあったろう損益のことだが、法律用語で言う逸失利益と同じような概念だ。確かに1年間売却を延期して40億円ほど余計に赤字が増える。しかし、民営化後「かんぽの宿」って赤字削減努力して「機会費用」を減らす努力していたのだろうか。元々民間では考えられない低料金と思われるが、民営化されて宿泊料金の値上げどころかむしろ値下げされているとさえ思える。
今後、黒字化に向けて割安に設定されてきた料金の値上げなどもあり得る。ただ、それでは景気が悪化するなかで、客足を遠ざけてしまう恐れもある。(産経)とあるが、民営化後の「かんぽの宿」HP・よくある質問には、
Q1: かんぽの宿は、民営化によって、何が変わったの?
A1: かんぽの宿は、民営化によって簡易生命保険法が廃止となったため、同法により規定されていた簡易保険加入者の福祉を増進することを目的とした施設ではなくなりました。
そのため、かんぽの宿の運営は、日本郵政公社から株式会社かんぽ生命保険ではなく、日本郵政株式会社が引き継ぎ、一般の旅館・ホテルと同様に、簡易保険の加入の有無にかかわらずご利用いただける宿として運営を行うことになりました。

とある。まだ不況でなかった2007年10月時点での値上げする意志などなかったらしいのだが、実際には事実上値下げしていると思われる。
かんぽの宿:利用方法@wikiによると、
簡易保険非加入者でも申し込み可能だったが、利用時には加算料金(一人一泊あたり2,100円)が上乗せされた。(略)郵政民営化後は通常のホテルとなったため、施設への直接予約のほか一部旅行会社からの予約も可能となり、簡易保険の加入の証明などは不要になった。宿泊料金は従来の加入者料金の水準を維持している。
つまり、非加入者も一泊当たり2100円の加算料金を払う必要がなくなったのだから、その分トータルで値下げしたのと同じということになる。これ、逆なのではないか。本来ならもはや簡易保険加入者のための福祉施設じゃなくなったのだから、簡易保険加入者も非加入者と同じ料金、プラス2100円支払わなければならなくなったというのが筋だろう。つまり追加料金分を上乗せして「通常料金」とすべきなのだ。全く話が逆に思える。また施設の立地、豪華さから考えて、「通常料金」(値上げではない)で他のホテルと競争できないとも思えない。結局、民営化後も、簡保加入者の既得権はそのままにしてますます赤字を膨らまし、機会費用を高くして「投げ売り」する口実を仕組んだとさえ思えるのだ。
ほかに、そもそも従業員込みの売却だと言う話もあるが、従業員の給与も不透明だ。元鳩山邦夫総務相秘書の馬渡龍治自民党衆議院議員のブログ代議士まわたり始末控:かんぽの宿によると、
赤字の原因は人件費にあると思います。現場の従業員はほとんどが外部の業者に委託しているようです。その上にかんぽの宿の直接現場と関係ないと思われる職員が数百人もいて、けっこう高い額の給料を払っているようです。民間であれば考えられないことです。
この、直接現場と関係ないと思われる職員が数百人もいて、けっこう高い額の給料を支払われている職員って、はっきり書かれていないけれど、要するに元郵政省からの天下りの職員じゃないかと。もしオリックス不動産に一括譲渡されていれば、こちらの既得権もそのまま譲渡されていたことは想像に難くない。ここら辺も明らかにしてもらわないと竹中氏の言う「機会費用」も全く説得力がなくなる。
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