ワルキューレ VALKYRIE

valkyrie公式サイトブライアン・シンガー監督、トム・クルーズケネス・ブラナービル・ナイパトリック・ウィルソン、スティーブン・フライ、トム・ウィルキンソンカリス・ファン・ハウテントーマス・クレッチマン。実際にあったヒトラー暗殺計画に基づく。「ヒトラーは死んだ!」と叫ぶシュタウフェンベルク大佐(トム・クルーズ)の声に焦燥感が混じっているのが感じられる。映画を観ている方は、大佐が確認したのは爆発だけであって、ヒトラーの死を確認していないことを知っているからだ。
とすると、大佐は、あの爆発時点で本当に総統の死を確信していたのか、見切り発車で「死んだことにしておかなければ、もう後戻りできない」と確信していたのか、どちらの確信を持っていたのかが焦点になる。それこそが戦場の生死を分ける女神ワルキューレの選択だ。
北アフリカ戦線で目の前で爆弾が破裂した体験を持つ大佐なら、本来の鉄筋コンクリートの、裏返せば空気の密閉度が高い、その分爆発の威力が高まる建物から、たまたま暑くて会議場所を変更された風通しの良い木造の建物では自ずと爆破の威力が減殺されたであろうことは、瞬時に判断できたはずだ。
そうすると、大佐の確信は後者の方だろう。実際、あの状況では、少しでも逡巡して念押しのために爆破された建物に戻ればその時点で逮捕されたであろうことが分かる。異変に気付いた守備兵が建物に殺到しているのに大佐を乗せた車だけが逆方向に向かうなど、一瞬の冷静さを取り戻させるだけで、怪しいと追跡されるはずだ。もう一歩も引き返せないところまで来てしまったのだ。
それ以降の大佐の行動は、ヒトラーが本当に死んだかどうかなどもはや問題ではなく、いかにベルリンにいる味方も敵もヒトラーの死を確信させて、ヒトラー側を反撃不能になるまで政治的死に追い込めるかがどうか問題なのだ。その状況判断、決断力は何も間違っていなかったと思われる。
映画を観る限り、大佐は90%成功したと思われる。
しかし、90%では不十分だった。ラジオ局や通信司令部を掌握できなかったことで情報戦にほころびが生じる。洞ヶ峠を決め込んだ冷静なレーマー少佐(トーマス・クレッチマン)は最後まで動揺せず、電話で総統の肉声を確認する。このもう1人のトムの状況判断で大佐の目論見は費えてしまう。ある意味、この映画の見所はこの「2人のトム」の状況判断力の戦いとも言える。
一見、大佐らが正義を体現し、ヒトラー側が悪を体現しているようにも見えるが、大佐らとて戦局が危うくなったことで「ヨーロッパを滅亡から救おう」「未来のためにヒトラーを暗殺する」などと「大義」を掲げたに過ぎないのではないか。「良心に従った」などと言われているが、戦局が良かった時も同じように言えたかどうか。最初の酒瓶作戦失敗もそうだが、本気でヒトラーを殺そうと思えば、自爆覚悟というのも有り得たことで、暗殺を企てる側も、暗殺後の権力獲得に汲々としていたことも見て取れる。
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