北海道円キャリートレード

池田信夫 blog:日本にも香港を

たとえば不況にあえいでいる北海道が為替レートを独自に設定すれば、たぶん円の半分ぐらいになり、解雇規制を撤廃して実効賃金を下げれば、中国と競争して工場を誘致できるかもしれない。

こういうアイデア、私も時々考えることあるが、普通は沖縄を想定する。昔は琉球王国だったし、島津藩に併合される前から海外との取引も盛んだったから、経済的に独立してもそう違和感なくやって行け、本土円高沖縄円安になるだろうから、パイナップルや砂糖産業も復活するかもしれないとか、円高で海外に取られた日本人観光客を呼び戻せるとか。
それはともかく、池田さんの考えるように為替レートが1本土円=2北海道円になればどうなるだろうか。北海道はアルバイトの時給は全国平均の2割安の反面、冬季の灯油消費量が多く、原油高のために消費者物価水準は全国平均よりやや高い。おまけに経済は公共事業頼みが大きく、独立するとなると、本土政府を頼りにできないので、恐らく為替レートで調整されないと大不況になる。そうこう考えると北海道円が暴落し、1本土円=2北海道円という仮定は多分妥当な気がする。
問題は、その後だろうか。北海道の住民で、例えば、住宅ローン残高2000万円かかえている人は、どうなるんだろう? この2000万円、本土円ですか、北海道円ですか?
通常に考えて貸している銀行側からすれば、「ローンを組んだ時点で日本円で借金したのだから、当然本土円で返してもらいます」となろう。しかし、借り手側からすれば、「借金した時点で本土円と北海道円は分かれていなかった。元々の日本円=本土円じゃない。北海道の住宅買うため借金したのだから借金も北海道円で返して当然。そうしてくれないと自己破産する」と譲らない。
けれど、銀行側も北海道円で返されたら、まともに返済されても本土円で1000万円の為替差損が発生する。本土円で返してもらっても、当然住宅価格相場も暴落しているだろうから担保割れで返済能力に疑義アリ続出だろうから、どっちにしても不良債権抱え込むことになる。これ、住宅ローンに限らず、北海道地元企業の借金でも同じ問題が起きるだろう。どっちにしても収拾がつかなくなる。
似たようなことが円建て住宅ローンで住宅購入した東欧とか金融破綻したアイスランドの人々で起きている。この問題をどうやって解決すればいいことやら。下手したら北海道のアイスランド化にもなりかねない気がするけれど。
ちなみに、預貯金の方は大部分引き落とされ、本土の銀行に預け換えされるだろうから、取り付け騒ぎで少なくとも北海道地盤の金融機関は壊滅する気がする。
更に、北海道円キャリートレードが起きるだろう。ミセス・ワタナベは北海道円の暴落を見越して、北海道が特別区になるや担保一杯まで北海道円で借金し、本土の土地などを買って為替差益を得ようとするだろう。そうすると、北海道円安バブルが発生し、1本土円=2北海道円どころか、下手すれば1本土円=3北海道円、1本土円=4北海道円にもなりかねない。
そうなったら、そうなったで、北海道は中国に充分対抗できる生産拠点になるだろうけれど、その代償として凄まじい明治以来の経済的大混乱になるだろう。北海道と本土の移動の自由が保障されていれば、人口の大移動が起き、大袈裟に言えば北海道全体が過疎化してしまう可能性もある。
それを防ぐためには、予め本土円・北海道円に限って管理為替制度にして為替変動を緩やかにするしかない。しかし、管理したら管理したで、レートを変更するたびに北海道住民とその他の日本国民とでてんやわんやの大騒動になりかねないし、生産拠点に成り得るほど為替メリットも得られないだろう。
やっぱり無理な気がする。ユーロのように通貨統合の場合は互いに過去の実績があるからうまく按分できるだろうが、通貨分離はかなり難しそう。香港ドルは植民地時代からの歴史があるから、実質人民元と別貨幣だからうまく言っているけれど。ちなみにチェコスロバキアが分離したビロード離婚の場合、ほぼ対等分離だったようなので、それほど混乱しなかったようだけれど、本土と北海道とじゃそんなビロードにはなりそうにない。
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