世襲議員は政界正社員

先週の「サキヨミ」で世襲制限が「一刀両断」されていたけれど、その中で元NHK記者でジャーナリストの池上彰氏が「世襲議員中選挙区制の名残りという説もある」と割と肯定的なコメントをしていた。
多分、その説とは、風知草:実は、世襲は減っている=専門編集委員・山田孝男 - 毎日jp(毎日新聞)

小泉純一郎の「親バカ」引退宣言で世襲議員は増えつつあると見られがちだが、政治学者の成田憲彦(62)によれば、現実は逆だ。麻生内閣は首相自身と閣僚の半数以上が世襲だが、それは2、3世が大量当選した中選挙区時代の残照に過ぎないという。小選挙区制導入で世襲は減っており、どうやら11月30日らしい次期総選挙でさらに減るというのだ。成田が国会議員の出自と学歴を調べて「大学ランキング2009年版」(朝日新聞出版)に寄稿したリポートの中に面白いデータがある。2世と3世は衆院自民党に集中し、それも若いほど少なく、古参ほど多い・・・・

というものだろう。これを孫引きしたらしい記事としては、
塩田潮の政治Live!:当選5回以上に多い中選挙区制が生み出した世襲制

自民党の国会議員は4割が世襲だが、当選5回以上の衆議院議員に限れば、世襲率は55%にはね上がる(河野議長を含む103人のうち、57人が世襲議員)。
現在の小選挙区比例代表並立制は1996年からで、当選5回以上の議員は以前の中選挙区制で初当選を遂げた人たちだ。93年に政治改革を推進した元さきがけの政治家が「世襲政治横行の主因は中選挙区制小選挙区制にすれば世襲は少なくなると思った」と語っていたが、間違いではなかった。大幅減とはいかないが、確かにいまは減少傾向にあるといえる。

けれど、選挙ごとの具体的な数字はない。普通に考えれば、「当選5回以上の衆議院議員に限れば、世襲率は55%にはね上がる」=「中選挙区制の名残り」なんてことにならない。常識的に考えれば、世襲議員の方が20代、30代あたりで初当選を果たし、当選5回以上になれる確率が高いだろうし、何よりも地盤が安定しているので自民が逆風を受けた選挙でも凌ぎやすいことは容易に想像できる。大体、「中選挙区制の名残り」なら、小選挙区制になって目立って世襲率は減るはずだが、そんなこと寡聞にして知らない。
1993年の最後の中選挙区制での衆議院選挙では、自民党新人議員26人のうち13人が世襲で5割を占める。しかも当選平均年齢は42歳で、非世襲組の48歳より6歳ぐらい若い。
2005年衆議院選の自民党新人当選者83人(小泉チルドレン)のうち世襲組と呼べるのは19人。確かに比率的には23%で激減しているようには見えるが、これはひとえに“小泉バブル”の賜物の結果だろう。普通なら落選している候補者も、選挙区で落選した候補も比例区で救済されたりしているので相対的に世襲組の比率が減っただけだ。
絶対数では増えている。しかも衆議院の定数は1993年511人に対し2005年は480人。定数に対する自民党新人議員の比率は1993年が2.5%に対し、2005年では4.0%と1.5倍以上に増えているのだ。これでなぜ「中選挙区制の名残り」なのか訳分からない。
一般に、世襲議員は選挙が自民党に逆風でも追い風でも安定的に議席を確保していると考えれば、何やら最近の正社員・非正規社員の問題によく似ている。不況(逆風)になれば派遣切り(非世襲組の落選)、好況(追い風)になれば、派遣社員大量採用(非世襲組大量当選)というわけだ。と思っていたら、
アゴラ:意味不明な「世襲制限」 - 池田信夫

要するに世襲の問題も、日本の硬直的な労働市場の副産物なのです。普通の人が政治家になる道が閉ざされているため、選挙に出るのはハイリスク・ハイリターンを求める特殊な人々で、当選したら選挙費用のもとを取るためにえげつない利権あさりをする。このため「政治家はまともな職業ではない」という評判が立って、ますますまともな人物が立候補しない・・・という悪循環が起こってしまう。
だから問題は世襲を禁じることではなく、世襲が有利にならない選挙制度をつくることです。もっとも重要なのは、公職選挙法による選挙費用の制限をきびしく運用して選挙違反の罰則を強化することですが、同じぐらい重要なのは、普通の民間人が選挙に立候補できるように参入・退出障壁を下げることです。それは社会がタテ割りになってヨコの移動が困難な日本社会を変える改革と一体です。

とあった。
別に世襲制限が「職業選択の自由」から公選法改正は不可能だとは思わない。他の職種と異なり、公職でしかもゼロサムゲームだから社長の世襲とはわけが違う。非世襲にとっては「職業選択の不自由」が発生しているのだから。つまり、処方箋は解雇規制と同様、実質正社員的世襲議員を落選しやすくする、というより政界流動性を高めるために公選法改正まで手を付けるべきなのだ。この場合は、自由化するために規制をかけるわけだけれども、流動性を高める点では方向性は同じだ。また、世襲議員は文脈的技能の塊のようなところがあり、その意味でも正社員的で、政界イノベーションの妨げになりやすい。政界における起業を妨げているのだ。

もっとも重要なのは、公職選挙法による選挙費用の制限をきびしく運用して選挙違反の罰則を強化することですが、同じぐらい重要なのは、普通の民間人が選挙に立候補できるように参入・退出障壁を下げることです。

選挙費用、選挙違反に対して厳しくするだけなら、ますます世襲議員有利になると思う。彼らはわざわざそんなリスク負わなくても当選できる確率高そうだから。重要なのは、やはり後半部分でしょう。
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