最悪泥棒に追い銭になる鳩山イニシアチブ

なんというか、取り立てて新味がない。

鳩山由紀夫首相の国連気候変動サミットでの演説要旨

 【削減目標】

 気候変動に関する政府間パネルIPCC)の議論を踏まえ、先進国は率先して温室効果ガスの排出削減に努める必要がある。わが国は長期削減目標の設定に積極的に関与する考えだ。2020年までの中期目標についても、1990年比25%削減を目指す。これは衆院選マニフェストに掲げた政権公約だ。国内排出量取引制度や地球温暖化対策税を検討するなど、あらゆる政策を総動員して実現する。

 しかし、わが国だけが高い削減目標を掲げても気候変動を止めることはできない。すべての主要排出国が参加する実効性ある国際的枠組みを構築することが、わが国の約束の「前提」となる。

 【途上国支援】

 発展途上国も「共通だが差異のある責任」の下で、削減に努める必要がある。とりわけ温室効果ガスを多く排出している主要途上国は、その必要が大きい。

 日本を含む先進国は資金面で貢献すべきだ。途上国の排出削減に関する検証可能なルールづくりが求められる。技術移転に絡んだ知的所有権の保護と両立する枠組みづくりを提唱する。以上を「鳩山イニシアチブ」として国際社会に問いたい。

 【結び】

 わが国の国民、企業の能力の高さを信頼している。産業革命以来続いた社会構造を転換し、持続可能な社会をつくることこそが、次の世代に対する責務だ。12月の気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)で成果が上がるよう共に協力してほしい。

25%カットは真水ではなく、途上国への省エネ技術提供も含まれているので、実際には数合わせの代償として環境技術のバーゲンセールになる。たとえば中国に技術援助して約3割燃料効率が良いとされる新日鉄大分製鉄所と同等の製鉄所を技術提供で中国が建設したとする。多分、3割分は日本による削減と見なしてもらう算段かもしれないが、それは中国がこれまで通り削減目標を定めない場合だろう。
2005年現在の中国の1人あたりのCO2排出量は既に日本の1人あたりの40%まで増えている。単純計算すれば、仮に日本が2020年までに25%カットしても、まだ現在の中国の方が75対40で省エネ国家として勝っている。この場合の省エネとは省エネ技術だけでなく、エネルギーそのものを使わないという意味での省エネだ。極論として中国が2020年の“削減目標”を2005年比で「50%にとどめる。それでも日本の削減目標より優れている」と宣言したら一体どうなるのやら。
その場合、中国は一応“削減目標”を設定したのだから日本の技術導入分による省エネ分をすんなり引き渡してくれるのかどうか。「日本から正当な価格で技術導入を買ったのだから、当然省エネ分は中国側が達成した。省エネ分は中国側が削減したと見なし、その分、50%増目標からマイナスに算定する権利がある」と言うに違いない。もし日本分と認める場合があるとすれば技術の完全無償提供のみの場合だろう。
これじゃただ食いされるに等しい。
仮に中国側が日本の技術を買って省エネ分をある程度日本の削減分として認めたとしても、あるいは中国側がこれまで通り“削減目標”を設定せずにいたとしても、鳩山イニシアチブの25%削減は足元を見られる格好のネタになる。「目標を達成したいのなら適切な価格で売ってもらわないと」と買い叩く材料にされてしまう。苦労して培った省エネ技術もただ同然で提供することになるのは必定だ。
しかも、身もふたもないが、こんなことしても肝心要のCO2削減には何の役にも立たないということ。途上国はCO2排出増加のスピードを多少緩めるだけで、膨大な技術のただ食いができるだけだ。
CO2排出には乗数効果というものがあり、中国に最新の省エネ設備の工場が整ったら整ったで、その工場というインフラから派生する生産や消費は省エネとは無関係に増大する。その乗数効果は計算外だ。結果、技術援助すればするほどCO2の絶対排出量は世界全体で加速する。
そもそも中国やインドはもはや途上国でない。そもそも数千年の歴史を持つ世界の大国を途上国扱いするなど失敬だ。身もふたもなく言えば、先進国と途上国と分けること自体、二酸化炭素排出削減の本質的目標からすればナンセンス。なにせ大気には国境がない。
もし先進国と途上国とに分ける必要があるとすれば、それは別の目的があり、それは両者に資本主義的差異をつけ、先進国による途上国への投資促進効果だ。環境技術で新興国の市場を確保、占有し、利益を本国に還元するという戦略のネタとしての技術供与だ。欧米などはこのことを戦略的に考えているのだろうが、鳩山イニシアチブはそんなことには無頓着というかナイーブに過ぎるように見える。
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