タクシー台数は単純な需給関係で決まらない

経済学101:過剰タクシーって何?

タクシーが過剰だというが、一体その数字はどうやってはかるのだろう。市場の失敗がない限り、適正な供給量は市場で決定される。タクシーに関してどのような市場の失敗があるのだろう(注)。サービスの供給が減り、価格が上がれば消費者にとっては確実にマイナスだ。何か理由がない限りタクシーの台数を下げるという政策の正当化は難しい。
タクシー業界は2002年の規制緩和を契機に都市圏で過当競争に陥り、厳しい経済環境も重なって、運転手の過酷な労働条件などが問題になっている。
タクシー運転手は他人に迷惑を掛ける可能性があるので、過酷過ぎる労働条件は是正する必要がある。しかし、それは労働条件を規制すればいいだけだ。労働者のコストが増えるので結果として供給は減るだろう。不の外部経済の内部化だ。
逆にタクシーの数に制限をつけても需要が減るわけではない。むしろタクシー当たりの仕事が増える。一台当たりの運転手を増やすインセンティブもないだろうから労働条件は悪化するだろう。
また台数の過剰などが原因で、県内のタクシー運転手の年間所得は、県内全産業平均より200万円少ないことも示された。
労働者の収入が少ないことは市場の失敗ではない。収入は需要と供給によって決まる。タクシー運転手の所得が低いのは、景気が悪いこととタクシーの運転をできる人が多いためだ。単純な所得が問題なら社会保障で対応すべきであってタクシー市場を歪めるべきではない。
またタクシーの数を制限してタクシーの価格が上がったとしても運転手の所得が伸びるわけではない。運転手になりたい労働者が減るわけではないので、タクシー会社は従業員たる運転手の給料をあげる必要はない。タクシーの供給を制限することで利益をあげるのはタクシー会社であり、そのタクシー会社から利益を供与される人々だ。

その中で、

サービスの供給が減り、価格が上がれば消費者にとっては確実にマイナスだ。

というのは、どうだろう。供給が減ったからといって価格が上がるほどタクシーというのは単純でないように思える。なぜかと言えば消費者、タクシー利用者はより安いタクシーを事実上選べない。
まず、タクシー利用者は、予め用事があるのが分かっていてタクシーを予約しておく場合を除いて、大抵は、突発的需要だ。公共交通機関の利用が不便なところに来てしまったので、タクシーを呼ぶ。仮にその人が割安タクシー会社の電話番号を登録しておいて、電話しても、あいにく「10分ほどかかります」と言われる。そのうち流しのタクシーが目の前を通り過ぎる。「あ、いいです」と断って流しのタクシーを捕まえる。まずそのケースがほとんどだろう。
なぜなら、タクシー利用者は常に時間との競争にさらされている。
つまり、タクシー利用者はいかに割安タクシーをゲットするかという競争とともに、いかに早くタクシーをゲットするかという2つの競争を同時に行っているのだ。そして、大抵の場合、料金よりも時間を優先することが強いられる。競争しているのはタクシー会社同士だけではないのだ。
駅前のタクシー乗り場となるとさらに明らかだ。タクシーが数珠つなぎで待機している。5台待てば割安タクシーをゲットできる。しかし、そのためには後4人乗客が必要だが、タクシー乗り場で待っているのは自分1人。誰が待つかよ。料金など考えず、さっさと先頭のタクシーに乗るだろうさ。今夜はクリスマスイブだよ〜、早く家に帰りたいよ〜関係ないけど。
空車率が高い以上、タクシー利用者にとって時間との競争はだぶついているのだ。つまり、限りなく早く乗る機会が充分に供給されている状態。場所にもよるだろうけど、タクシー利用者にとって、減車されても痛くも痒くもない状態なのだ。
で、こんな状況で本当に単純な需給法則なんて成立するのか。値下げしたからといって、そのタクシー会社が儲かるとは限らない。儲かるのは予約専業に特化したタクシー会社くらいだろう。「過剰なタクシー」をそのまま放置してもタクシー料金が下がるわけではない。逆に減車しても料金が上がるわけでもない。けれど、「過剰なタクシー」を放置しておけば確実にタクシー会社のラニングコストは高止まりする。空車で待っていても、暖房切るわけにもいかないので、無駄にガソリン消費するだけだ。ましてや暫定税率実質維持が決まったのでなおさらだろう。馬鹿馬鹿しいのでコスト削減するのは当然の成り行きになる。
残るはタクシー運転手の問題。労働供給は減るだろうが、

逆にタクシーの数に制限をつけても需要が減るわけではない。むしろタクシー当たりの仕事が増える。一台当たりの運転手を増やすインセンティブもないだろうから労働条件は悪化するだろう。

ということになるのかどうか。現実は、空車率が高いだろうから、タクシー当たりの仕事が増えてOKじゃないの? 仕事(乗車中)と仕事しているけど空車なのとで労働条件は後者の方が悪化するなんてこと有り得ない。当然、タクシー運転手の方は前者の方が儲かるので労働条件は良化する。労働供給減にしても、これまでの労働条件の悪化(働いているけれど空車率が高いので余計に労働時間を増やして過労状態)は改善される。すると、労働時間が減り、余った分はワークシェアできるので、結果的にタクシー利用者=プラマイゼロ、タクシー会社=コスト削減でプラス、タクシー運転手=過酷労働条件の改善でプラス。いや、タクシー利用者も減車されれば、流しを捕まえる確率が低くなり、前例のように電話で割安タクシーをゲットする確率が高くなるので、その意味でプラスかもしれない。
言い換えれば値下げ競争は減車して初めて成立する
つまり、みんなハッピーになるってことだ。
そもそも、

過酷過ぎる労働条件は是正する必要がある。しかし、それは労働条件を規制すればいいだけだ。労働者のコストが増えるので結果として供給は減るだろう。

と言われていることは、減車によって解消できるのだ。ついでに、そのことは、

タクシー運転手は他人に迷惑を掛ける可能性がある

からではもちろんない。
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