技術輸出では雇用促進にならないという幻想

元旦に見たNHK生激論2010 にっぽん大転換!?で、建築家の安藤忠雄氏が「日本の技術でベトナム新幹線を建設しても、現場の作業員は地元のベトナム人だから日本の雇用を増やすには役に立たないでしょう」と言っていた。つまり、技術だけ輸出しても、日本人の雇用増加には何の役にも立たないという考えだ。
これは、明らかに間違いと言わねばならない。仮に南北縦貫のベトナム新幹線の建設に作業員も日本から引き連れていけば、まずベトナム人の雇用が奪われることになる。彼らは日本人よりも低賃金で働いてくれる。その差額の建設コスト誰が払うのか。ベトナム政府だとしたら、「そんなコスト払うなら別の国の企業に頼む」と建設そのものが日本以外の国に奪われていたろう。丸損である。日本企業が払うとしたら、これまた採算が合わないだろう。なにせ日本人労働者の賃金ばかりか、滞在費、交通費まで面倒見なければならない。
では、技術だけ輸出しては日本人の労働者が恩恵を受けないかと言えばそんなことはない。ベトナム国内に労働需要を発生させることによって、ベトナム人の海外出稼ぎ需要が減殺される。そうすると、相対的に日本に入ってくる出稼ぎ労働者も少なくなる。そのことは、日本国内の労働者の賃金水準の低下を抑える方に作用する。
またベトナム新幹線ができることによって、ベトナムの経済基盤が充実し、ベトナム人労働者の賃金レベルが上がる。めぐりめぐって、日本の賃金水準とそれ以外のアジアの賃金水準の格差が縮小する。縮小すれば、日本の国内企業の工場の海外転出を思いとどまらせる方向に作用する。ベトナム新幹線は将来のベトナム経済に大きく影響するプロジェクトなので、長期的スタンスに立つ日本の国内企業の海外転出を食い止めるには意外と大きな効果があるだろう。
もちろん、これはベトナムの例だが、中国だって同じだろう。今は中国から安い製品が日本国内に流入しているが、中国の賃金水準も鰻登りに上がるだろうから、賃金格差にによる日本の賃金低迷は意外と早く底打ちするだろう。輸出型産業が日本国内の雇用や需要に恩恵をもたらさないというのは長期的視点に立てば誤りだ。いや、もし日本企業が外国に進出していなかったら、賃金格差は今よりもっと開いたままになっていたはずだ。目の前の現実だけ見ていると、将来が見えなくなる。
実は年末に発表された民主党の新成長戦略にもしっかり「アジア所得倍増」と明記されている。これは単にアジアへの輸出依存による成長だけでなく、日本とその他のアジアとの賃金格差、生活水準格差縮小による効果が見込まれ、他力本願のようでいて実は自力本願なのだ。
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