「消費税は累進的」という笑い話

消費税は逆進的ではない - 池田信夫

消費税が「逆進的」だという小飼氏の議論は誤解です。こういう議論は「限界消費性向」というケインズの概念にとらわれているが、人々は当期だけで場当たり的に消費するわけではないので、生涯所得(恒常所得)で考えたほうがよい。生涯所得で考えると、人々の所得は勤労所得と引退後の年金にわけられます。一般に後者のほうが低いので、現役のとき高い所得を得ていた人でも、引退後は所得が低くなり、消費性向は上がる。人々が合理的に消費すると仮定すると、死ぬまでに所得をすべて使い切るので、生涯所得に対する消費税の比率は同じです。
実証的にも、この推定は確かめられています。大竹文雄氏と小原美紀氏によれば、次の図のように(所得が最高の)10分位の消費税の生涯所得に対する負担率は4.05%であるのに対して、第1分位の負担率は1.59%。消費税は、かなり強く累進的なのです

一体、経済学で言う「実証」なるものがどの程度のものなのかよく分からないが、およそ自然科学でいう実証とはかけ離れた概念なんだろう。
元ネタ「消費税は本当に逆進的か 大阪大学社会経済研究所教授大竹文雄 大阪大学国際公共政策研究科助教授小原美紀」に書かれている前提を拾ってみる。キーワードは「ライフサイクル仮説」だ。

世の中に、全く同じ所得水準の人しかいなかったとする。20歳から60歳まで、年収が500万円、60歳以降は年金所得が200万円で80歳まで生きるとしよう。人々は、生涯同じレベルの消費水準を達成できるように貯蓄し、それを取り崩すとする(図2)。ここで、簡単化のために、金利をゼロとすると、人々は毎年400万円ずつ消費すれば、60歳まで毎年100万円ずつ貯蓄し、60歳以降は毎年貯蓄を200万円ずつ取り崩すと、80歳でちょうど貯蓄を使いはたすことになる。これが、経済学でライフサイクル仮説と呼ばれる消費行動を説明する理論のもっとも簡単なケースである。

しかし、この両者は年齢が違うだけで生涯所得は同じであるから、生涯所得に対する生涯消費税負担で考えると、どちらも、約4.8%の消費税負担率ということになる。このように、狭い意味のライフサイクル仮説が成り立つと生涯所得=生涯消費であるため、消費税が比例税である限り、生涯所得に対して消費税には逆進性はなく、あくまで比例税にすぎない。

仮に、低所得者ほど消費性向が高いならば、消費階級別データにおいても消費階級が低いほど所得に対する消費税負担額の比率は高くなるはずである。一方、ライフサイクル仮説が正しければ、所得に対する消費税負担率は消費階級に関わらず一定になる。
単純なライフサイクル仮説を前提とすると、所得の相対的順位は毎年変化する可能性があるが、消費階級の相対的順位は年齢が変わっても変化しないと考えられる。

とある。なんかすごく「単純」で「簡単」な「狭い意味」の「正しければ」成り立つライフサイクル仮説を根拠に“実証”された消費税の累進性なわけだ。
特に笑えるのは、狭い意味のライフサイクル仮説が成り立つと生涯所得=生涯消費であること。お金持ちも貧乏人も死ぬまでには生涯所得を全部消費に回しますから死ぬ瞬間にはお金持ちも貧乏人も生涯消費性向は仲良く100%になり、消費の多いお金持ちの方が消費税の負担率が高いというわけだ。
いや、お金持ちの場合、生涯消費性向は100%以上になる可能性さえある。相続税対策として余った生涯所得以上の不動産なんかを買って借金して死ぬ場合もある。不動産の取得だって消費税がかかるからますます“累進的”なのかもしれない。
けれど、普通にこういう仮説は正しくないだろう。大部分のお金持ちは生涯所得を死ぬまでに使わず、残った生涯所得も相続税の控除範囲内で収まるだろう。
要するに前提となるライフサイクル仮説自体が文字通りの仮説で、しかも結論も仮説のまんまで完結している。それを“実証”とする世界がイケノブ・ワールドなのだ。
この仮説に従うと、消費税増税に伴う“途中棄権”も当然“ノイズ”として処理されるのだろう。すなわち消費税の“一時的逆進性”がlast strawになってライフサイクル半ばで借金苦に陥り、自殺するとかされてもライフサイクル仮説の対象外だからないものとして処理される。
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