重病人を元気と診断する倒錯した経済観

日銀が追加金融緩和を見送ったことで、また大騒ぎだ。

[東京 23日 ロイター] 円高対応としての金融緩和や為替介入に期待が高まるなか、23日朝に菅直人首相と白川方明日銀総裁の電話会談が行われた。会談内容の詳細は明らかでないものの、金融緩和など日銀への明確な政策要求はなかったとみられる。

「元気」な欧州と夏バテの日本  編集委員 菅野幹雄(日経)

日本が実質ゼロ成長近くに失速した4〜6月期の国内総生産(GDP)で、独経済は市場の予測を大幅に上回る前期比2.2%成長を記録した。年率に直せば9%近い伸びで、1990年の東西ドイツ統一後の統計では前例がない。ドイツ躍進のおかげでユーロ圏全体のGDPも年率で約4%成長に。地元メディアは「欧州を危機から引き出した」(南ドイツ新聞)など、自国の好成績に手放しの喜びようだ。

これ、簡単に言えば錯覚なのだ。円高ユーロ安で自国通貨を叩き売りしたEUと叩き売りしなかった日本とでは実質GDPがゼロの日本の方が本当は元気がいい。ユーロ安で輸出が増えてGDPが上がったところで、肝心のユーロが暴落しているから成長したことにはならない。
両国の4〜6月の前期比をドルベースで比べると、約10%対ドルで下落したユーロに対し、日本円はほとんど変化していない。言い換えればユーロの独歩安。だから、

年率に直せば9%近い伸びで、1990年の東西ドイツ統一後の統計では前例がない。ドイツ躍進のおかげでユーロ圏全体のGDPも年率で約4%成長に。

なんて言っても、成長したことにならない。水をガブガブ飲んで体重増やしたようなものだ。
昨日の「TVタックル」でも、「アメリカはドルを日本の2倍市場にばらまき、ヨーロッパも1.5倍ばらまいて通貨安政策をしている。日本だけが取り残されて円高になった」なんて言っていた。
よっぽど「日本だけが取り残されて」が好きな人々のようなのだけれど、それじゃあ、リーマンショック前、欧米の政策金利が5%以上あったのに「日本だけが取り残されて」0.5%という超低金利を維持し、国内的には“戦後最長の景気拡大”を達成したものの、その間に円キャリー・トレードで世界全体がバブル化したことをどう見ているのだろうか。現在の円高は低金利の円建て住宅ローンで起きたヨーロッパの住宅バブル崩壊による最終的な円キャリーの巻き戻し現象だろう。
通貨供給を増やすということはカンフル注射みたいなものだ。カンフル注射をたくさん受けた病人が「元気」、カンフル注射受けてないものが「だらしなくて元気がない」なんて言ったら、普通は笑い物だ。ところが経済に関しては、すっかり倒錯現象が起きていて本気で病人を元気者扱いしているのだ。
これは日米欧だけの話だけでない。

大西 宏のマーケティング・エッセンス

日本の情報家電のメーカーは、世界市場での衰退が目立つだけでなく、営業利益率はおしなべて低く、日立2.3%、パナソニック2.6%、ソニー0.4%などという惨憺たる状態です。しかもそれは地デジ特需、エコポイント特需があっての業績です。
今や国内の家電メーカーよりも巨大になったサムスンの営業利益率は8.0%であり、売上でも、利益でも日本メーカーは太刀打ちできない差をつけられたことはおそらくご存知だと思いますが、日本にいると、家電量販店では、日本ブラン(ママ、ブランド?)のオンパレードなので、なかなか実感にはならないかもしれません。日本市場が特殊なだけです。

これまた円高ウォン安という“水増し”効果は一切無視されている。およそ何かを国際比較する場合、為替レートの変遷を比較するのは基本動作だろう。
自国通貨がどんどん高くなっているのにここまで自虐的にしか見られない人たちによって、日本人は実際には病気でないのに重い病気と思い込んでしまう心気症にさせられてしまっている。
ところで、リーマンショック前の日本の円安政策を全世界がやれば、その行き着く果てに、どんな事態が待ち受けているのだろう。恐らく、リーマンショックが可愛らしく見えるほどの「千年に一度の世界金融破綻」ではないだろうか。これが本当の金融版「千年王国」だとしたら、笑えない冗談だ。「世界経済の赤色巨星化」がいよいよ始まるのだろうか。
しかし、エコノミストとか経済評論家というのは目先のことしか見えないアホッタレのスクツだから誰も気にしないだろう。
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