中国の人民元為替管理政策こそ現代版スムート・ホーリー法
中国に人民元切り上げを迫る制裁法案が米国下院で29日(米国時間)可決された。世界大恐慌を深刻化させたスムート・ホーリー法の現代版とも言えるような代物で好ましいものではない。米中貿易戦争の開始とも言えるだろう。当然、日本にも影響は出てくる。
アメリカが1930年6月17日に成立した関税に関する法律であり、20,000品目以上の輸入品に関するアメリカの関税を記録的な高さに引き上げた。多くの国は米国の商品に高い関税率をかけて報復し、アメリカの輸出入は半分以下に落ち込んだ。一部の経済学者と歴史家はこの関税法が大恐慌の深刻さを拡大した、あるいはそれ自体を引き起こしたと主張している。
第一次世界大戦後まもなく、アメリカ国内では保守主義が強まり、共和党が政権を獲得した。第一次世界大戦中に債務国から債権国に転換したにも拘らず、ほぼ1920年代にわたって共和党政権下で保護貿易政策が採られることになった。このことは、大戦によってアメリカに債務を負ったヨーロッパ諸国の負担をより深刻なものにさせた。
1929年、ニューヨークのウォール街における株式大暴落に端を発する大恐慌が起こった。この恐慌は各国へ広まり世界恐慌へと発展するが、当時のフーヴァー大統領(共和党)は、国際経済の安定より国内産業の保護を優先する姿勢をとった。こうした中で、スムート・ホーリー法が定められることとなった。
スムート・ホーリー法は、高率関税を農作物などに課すことで、農作物価格などの引き上げを図ったものである。平均関税率は40パーセント前後にも達したことで、各国のアメリカへの輸出は伸び悩み、世界恐慌をより深刻化させることになった。その後、1931年にフーヴァー大統領はフーヴァーモラトリアムを発して世界経済の安定を図るが、既に手遅れであった。
一見、米国下院による中国に人民元切り上げを迫る制裁法案が現代版スムート・ホーリー法に見えるかもしれない。
しかし、wikiの
第一次世界大戦中に債務国から債権国に転換したにも拘らず、ほぼ1920年代にわたって共和党政権下で保護貿易政策が採られることになった。このことは、大戦によってアメリカに債務を負ったヨーロッパ諸国の負担をより深刻なものにさせた。
を現代にパラフレーズすると、
冷戦後、世界の経済成長センターに転換したにも拘らず、中国は20年にわたって為替管理政策という名の輸出促進策が採られることになった。このことは、世界金融危機によって痛手を負ったアメリカの負担をより深刻なものにさせた。
実際、世界金融危機を誘発させたのは中国の人民元為替管理政策が大いに寄与した。
グリーンスパン氏は(冷戦終結後の)90年代から新興国が中央集権的計画経済からダイナミックな輸出主導型市場競争へ構造的転換した結果、長期金利が低下したという。池田氏の解説にもあるように、
FRBがFF金利を引き上げても長期金利が下がる現象を、グリーンスパンが「謎」(conundrum)と呼んだのは有名だが、その謎の原因は新興国の貯蓄過剰だったという。
しかし、今にして思えば、“謎”はすぐに分かったはずだ。人民元の為替を管理レートにしている中国や超低金利政策をやめなかった日本が恐ろしい勢いで輸出ドライブをかければ、とりあえず米国債は買われまくり、長期金利は低下することを。そして、FF金利を上げれば、ドル高になり、ますます二国間のキャリートレードを促進させてしまうことも。
つまりは、もう一度wikiの、
の部分をパラフレーズすれば、
一部の経済学者と歴史家はこの中国の人民元の為替管理政策が世界金融危機の深刻さを拡大した、あるいはそれ自体を引き起こしたと主張している。
今の中国は世界経済の歴史的観点から見れば、1920年代、30年代と重なる。違いは国家社会主義経済だから大恐慌のようなことは起きなかっただけだろう。
中国国内で大恐慌が起きない分、その皺寄せはそれ以外の国に及ぶ。もちろん日本にも。日本の昨今の円高は多分に中国の人民元管理政策の皺寄せ的要素が大きい。既にその具体的な例もある。
日本版Conundrum
グリーンスパンの謎も仙谷由人も謎も、落とし所は同じ中国だろう。今、中国は日本国債だけでなく、日本の不動産も、日本の美術品も買いまくっている。
日本の超低金利政策は、世界金融危機で破綻したが、もう一つの中国の人民元為替管理政策は不動だ。ここは利害が一致する日米連携が必要だろう。尖閣問題も当然リンクして。
ちなみに、極東ブログで引用されているニューヨークタイムズ
That may be the only way to get China to abandon its victim act
の“victim act”は「犠牲を強いる政策」というより、「ヴィクティム法」と訳すべきだろう。つまり、「スムート・ホーリー法」の英訳“Smoot-Hawley Tariff Act”と同じ意味の“Act”だ。ガイトナーが同法を意識しているかどうかはともかく、人民元為替管理政策自体がアメリカ的には関税法と同じように意識されているということだ。
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