柳田稔法務相に学ぶ模範答弁実例集

柳田法相の発言要旨(読売)

「法相とはいいですね。二つ覚えておけばいいんですから。『個別の事案についてはお答えを差し控えます』と。これはいい文句ですよ。これを使う。これがいいんです。分からなかったらこれを言う。これで、だいぶ切り抜けて参りましたけど、実際の問題なんですよ。しゃべれない。『法と証拠に基づいて、適切にやっております』。この二つなんですよ。まあ、何回使ったことか。使うたびに、野党からは責められ。政治家としての答えじゃないとさんざん怒られている。ただ、法相が法を犯してしゃべることはできないという当たり前の話。法を守って私は答弁している」

という訳でまず、「個別」「事案」「差し控え」でぐぐってみた。これは法務大臣に限らずいっぱいある。いっぱいあるので、ほんのサンプル採集。
まず目新しいところでは、
尖閣の中国船衝突速度 政府の答弁書は「個別の事件だから、差し控えたい」で決定(産経2010/10/26)

政府は26日の閣議で、沖縄・尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に体当たりした際の中国船の航海速度について「個別具体の事件の捜査に関する事柄だから、答弁を差し控えたい」とする答弁書を決定した。自民党山谷えり子参院議員の質問主意書に答えた。

2010年8月4日 国会各委員会・質疑応答集 参議院 予算委員会

国務大臣原口一博君)お答えいたします。
(略)これまでも、自民党時代でもそうでしたけれども、総務省としては個別の事案については実質調査権を有しておらず、具体的な事実関係を承知する立場にないので、一般論でお答えさせていただきました

自民党時代でもそうでしたけれども」というのが泣ける。
原口総務大臣閣議後記者会見の概要平成22年3月19日

(略)住民の意見を尊重して今回の合併の処分を停止ができるかどうか分かりませんが、何らかの形で住民の意向をくむようなことはお考えになっておられますでしょうか。お願いします。  
答:基本的に個別の事案についての見解は、差し控えたいと思っています。

一つの文書で何度も使われている事例。
答弁書第三二号 内閣参質一六四第三二号 平成十八年三月十七日 内閣総理大臣小泉純一郎 参議院議長扇千景殿

行政処分を行っていない個別の事案に対する対応については、これを公にすることにより、当該貸金業者の権利又は競争上の地位を害するおそれがあるため、答弁を差し控えたい。また、個別の事案について、警察当局が捜査するか否か、また、犯罪の嫌疑を認めるか否かについては、答弁を差し控えたい。
個別の事案について、警察当局が捜査するか否か、また、犯罪の嫌疑を認めるか否かについては、答弁を差し控えたい。

平成21年03月19日|議事録|すべての武器を楽器に。 前参議院議員 喜納昌吉公式サイト

国務大臣(森英介君)法務大臣として個別の事案についてのコメントは差し控えたいと思います。

2009/1/21日本共産党参議院議員・山下よしき:ダイハツ「雇い止め」政府は是正指導を

舛添要一厚生労働大臣 個別の事案についてのコメントは差し控えたいと思いますが、一般論として申し上げますと、裁判の判例をいろいろ調べてみました。
○舛添厚生労働大臣 繰り返しになりますが、個別の事案についてのコメントは差し控えますが、雇い止めにつきましては、労働基準法に基づきまして、有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準というものが、これは大臣告示がございまして、そこで、契約の締結時にその契約の更新の有無を明らかにする、それから、雇い止めの理由について労働者が請求した場合は証明書を交付すること、これが定めてございます。

2008年04月25日 第169回 通常国会 財務金融委員会

佐々木議員は、「今回の事件では、入社間もない人が企業機密を扱う部署に配置されている。社内体制に問題があったのではないか」と追及しました。
 渡辺喜美金融担当大臣は、個別の案件にはコメントしないとしつつ、「証券会社は市場の信頼を損なわないことが大事。適切な内部体制をとることが必要だ」と述べました。

民間の事例も。
生保大手、国会議員を10段階に格付け 支援に差つける(2010年8月7日朝日)

ランク分けや選挙支援について、日本生命は「個別の国会議員への対応についてはお答えを控えさせていただきます」、第一生命は「個別の議員にかかわる事案についてはお答えを控えさせていただきます」、明治安田生命は「政治とのかかわりにつきましては法令に従い適正に対応しています」、住友生命は「具体的もしくは個別の事案にかかる回答は差し控えさせていただきます」と回答している。

ご丁寧にというか奇しくもというか、明治安田生命は他社と違いもう一つのフレーズを採用している。二者択一じゃあるまいし。
続いて「もう一つのフレーズ」を「法」「証拠」「基づ」「適切」でぐぐる。まあ、これは事の性質上、法務大臣にかなり限定されそう。
法務大臣閣議後記者会見の概要平成22年2月5日(金)

あくまでも検察が法と証拠に基づいて,立件すべきものは立件し,そして,そうでないものはそうでないということで,捜査を行ったということだと理解をしています。(略)
事実関係が全くわかりませんので,コメントをできる状況にはありません。普通は,財政法に基づいて適切に行われるものであろうと思っていますし,そのように進めているのではないかと思います。

ちなみに当時は千葉景子法務大臣
二つの合わせ技的答弁もあった。
2010年10月13日「中国漁船による公務執行妨害等被疑事件について9月24日に那覇地検が行った記者会見の内容等に関する質問主意書」と、内閣総理大臣からの答弁書☆平成22年10月4日 高市早苗衆議院議員→内閣 質問主意書提出☆平成22年10月12日 菅直人内閣総理大臣→衆議院議長 答弁書送付

菅直人内閣総理大臣
被疑者の身柄拘束を含め、どのような捜査を行うかについては、捜査機関において、個別具体的な事情に応じて、法と証拠に基づき判断されるべきであり、どのような場合において、どのような捜査を行うかについて、一概にお答えすることはできない

結論として、柳田法務大臣の発言は諸先輩の発言を踏襲したものであり、「国会軽視」発言(毎日)とは必ずしも言えない「適切」な発言だったと言わざるを得ない。
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