小出裕章氏は「再臨界の疑いが濃厚」と言ってない 


ビデオニュース・ドットコム:福島原発で再臨界の疑いが濃厚に 解説:小出裕章氏(京都大学原子炉実験所助教)

京都大学原子炉実験所の小出裕章助教は、放射濃度の急上昇に加え、原子炉の温度や圧力の急上昇していること、更に塩素が中性子に反応して生まれるクロル38という塩素が原子炉内で発見されたことなどから、炉内で再臨界が起きている可能性が高いと指摘する。中性子核分裂が起きたときに発生する。
臨界とは放射性ウラン燃料などが核分裂連鎖反応を起こす状態のことを言う。「再臨界」は、臨界状態にあった原子炉が一旦停止して核分裂が止まった後、燃料棒の露出などでウラン燃料が溶け出して、圧力容器の下部に蓄積するなどして、制御されない状態で核分裂連鎖反応が起きる状態を指す。
再臨界が起きると核分裂反応の制御が困難になり、大規模なエネルギーが発生するため、原子炉内の温度があがり水蒸気爆発の可能性が高くなる。
小出氏は、水蒸気爆発が発生し、圧力容器や格納容器が吹き飛び、今とは桁違いの放射性物質が流出する最悪のシナリオにも今後警戒していくべきだと述べ、その場合、風向き次第では東京も避難対象となる可能性にも言及している。

さて小出氏は本当に神保哲生氏の理解通りのことを言っているのか。
実際のビデオを見ると、小出氏自身は、再臨界については見出しのように「濃厚」などとは言っておらず、「ひょっとして今回起きているのかもしれない」と言っている。
その後、「高濃度のクロル38」について言及しているが、クロル38が観測されたのは3月25日の話で、小出氏は4月5日のラジオ放送で既に言及しており、その時も「ひょっとしたら」ベースだ。
ところが番組では冒頭にまず4月8日に格納容器内の放射線量が急上昇したことがグラフで示されている。ちなみに3月26日には海水注入から真水注入に変更されているので、4月8日時点で高濃度のクロル38が発生することは考えにくい。
番組の後半では、この3月25日のクロル38と4月8日の放射線量急上昇の二つの事象が合わせ技で再臨界説を強化すると言われている。
もし、クロル38を証拠に再臨界が起きていたのなら先月25日以前に放射線量が急上昇していなければならない筈だが、冒頭に示されたグラフでは3月20日以降放射線量は4月8日までは特段減りもしていないが増えてもいない。クロル38が状況証拠ならとっくに放射線量が増大していなければならない。そして、その後で一気に再臨界、水蒸気爆発、風下300キロ退避となる。この展開はちょっと暴走気味だろう。
ところで、4月7日深夜、マグニチュード7.4の大きな余震が宮城県沖で発生している。当時、注水は継続されたとされているが、あれほどの余震で余震発生以前と同じように安定的に注水されていたかは不明なので一時的に温度が上がった可能性もあるし、余震の影響で何らかの物理的作用で放射性物質が格納容器内に漏れ出た可能性もあると思う。東京電力は余震のおかげで計器が故障したと言っているらしいが、番組では言及されていない。
また小出氏は「崩壊熱が上がることは有り得ない」と言っているが、これも素人にはよく分からない説明に思える。燃料棒の被覆膜がこれまでより多く剥がれて燃料ペレットがより多くこぼれ出れば崩壊熱の原因である核分裂生成物の総量も増えて熱の総量も上がるのじゃないだろうか。崩壊熱が上がらないと言うのはあくまで核分裂生成物が新たに加わらないという一般的前提に基づいているのではないか。
こういう疑問は本来、質問する側が適宜質問して調整しなければならない筈だがほとんど聞き放しなのでさっぱり明快にならない。
要は今回の8日の再臨界説も「ひょっとしたら」の仮説に過ぎないとしか取れないのだ。そもそも小出氏自身が格納容器は機密性を失っていると言っているのだから、なんで機密性が失われた格納容器内で蒸気爆発が起き得るのか不思議だ。余程爆発的に再臨界を起こして温度が猛烈に急上昇しないことには有り得ないと素人としては思うのだけれど。また小出氏は「ひょっとして」と言いながら、他の文脈では「それ以外考えられないと思うようになった」などと混乱させる言葉を吐いている。よく聞くと「このように仮説した場合」と前提を付けており、見出しの「濃厚」もその前提に立った場合の話だ。こういう見出しの立て方は東スポ並みで素人は混乱するばかりだろう。一部では「小出氏はデマを飛ばしている」という話もあるようだが、単に説明の仕方が悪いことと見出しのせいだと思うのだけれど。
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