国破れて国有資産あり

「いまさら聞けない経済学」の復習:agora池尾和人

データの出所はOECDのEconomic Outlookで、金融資産は控除しているが、実物資産までは控除していない(だって、国道を売って借金の返済に充てるわけにはいかないからね)。確かに1990年代の前半までは、日本の純額の対GDP比は20%程度で、むしろ少ない方だという指摘が妥当した。しかし、その後はネット・ベースでも急増し、2008年にはイタリアを抜いて純額の対GDP比でもわが国の状況は先進国最悪となった。2007年以降の動きは、ギリシャと全く重なっている。
純額でみた債務が急増した理由の1つは、いわゆる「埋蔵金」を財源に使ったこと。「埋蔵金」とよばれる積立金の類は、金塊や小判で保管されているのではなく、国債で運用されているのが普通である。これが、日本政府が保有しているという金融資産である。それゆえ、「埋蔵金」を債務の返済に充当せず、他の用途に使ってしまうと、総額での国債発行残高は増えないが、保有資産が減って純額でみた債務は増える。
この点は、前に「『埋蔵金』の正体は国債」という記事に書いたので、参照して下さい。なお、震災増税の負担を減らすために、政府保有日本郵政株等を売却するという話があるが、政府保有株を売却すれば、やはり資産が減って純額でみた債務は増える。資産を切り売りして、真の意味での負担が減るなどということはない。フリーランチは存在しないというのは、最も確かな経済原則である。

特にオレンジ色の部分に要注意だ。実物資産=土地・建物、機械など。国道だけじゃありませんね。実物資産を含めてもギリシャ並みと池尾先生には是非復習して実証してもらいたいところだ。
こういう見せかけの論理ってある意味便利だなあと思う。例えば、
国家公務員宿舎の着工批判に反論=朝霞への集約で復興財源捻出−安住財務相(時事)

安住淳財務相は26日の衆院予算委員会で、東日本大震災の復興財源に関する議論が高まる中、埼玉県朝霞市の国家公務員宿舎が着工されたことに批判が出ていることについて「全国の宿舎の廃止・集約で15%削減する方向だ。朝霞宿舎の着工だけを見て、公務員はぜいたくをしてけしからんという見方にはくみしない」とし、建設の正当性を主張した。塩崎恭久氏(自民)への答弁。
朝霞宿舎は、野田佳彦首相が財務相時代に着工を指示した。首相は同日午後の予算委の答弁で、公務員宿舎の売却益を復興財源に充てる方針を示した上で、同宿舎の着工については「特段変更するつもりはない」と語った。 
財務省が22日にまとめた同宿舎の着工批判に対する反論書面によると、埼玉県内の公務員宿舎1000戸分を廃止、売却して朝霞宿舎に集約することで、10億〜20億円程度を復興財源に回せるという。

のように、いくらでも「国の資産」を増やす理由に使える。普通の会社なら経営が悪くなれば社宅は売却するだろう。社宅は会社の資産だから「資産を切り売りして、真の意味での負担が減るなどということはない。フリーランチは存在しないというのは、最も確かな経済原則である」などと悠長なこと言ってられないだろう。
バブル時代、旧国鉄の債務を減らすため旧国鉄の遊休地を売却する動きがなぜか中止されたことがある。その理由は「国有地を売却すると土地の値上がりを煽る」というものだ。当時、国有地を売却するたびにトンデモない価格で売り切れ、それをマスコミが大騒ぎしたためだ。普通の需給の論理で言えば、土地を供給するのだから地価高騰を助長することなどあり得ないのだけれど。おかげで、
国鉄長期債務償還とその破綻

結局、償還不能となった債務のうち、政府保証付債務24兆2000億円は、1989年の閣議決定に基づいて1998年度の国の一般会計に繰り込まれ、郵便貯金特別会計からの特別繰り入れ(2002年度まで)、たばこ特別税収、一般会計国債費などを財源とする国民負担で処理することになった。債務処理が終了するのは60年後の2057年で、民営化後20年にあたる2007年3月末現在の政府保証付国鉄長期債務残高は20兆9964億円である。

という悲惨なことになった。この分では、恐らく「国鉄債務」を「震災復興」に置き換えれば近い将来、同じことが起きるのだろう。
実は、この“資産主義”は電力会社の総括原価方式にもいかんなく適用されていて、

事業報酬は電力供給に必要な資産に一定の報酬率を掛けて算出する。東電の場合で率は3%。資産規模が大きくなればなるほど利益も大きくなり、料金も上がる。このため、「電力会社が無駄な発電設備を建設するなどコストを過剰にかける一因になってきた」(政府関係者)との批判もある。

(産経)
のだ。こんな美味しい資産だから原発どんどん作った方がいいに決まっている。

国破れて国有資産あり
なんて洒落にもならない。
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