東京電力の「事象」扱いは暫定的に正しい

福島第一原発 停電、ネズミ原因か(東京新聞)

◆「事故でなく事象」東電、重大事の認識欠く
東京電力は、福島第一原発で起きた停電事故のことを、発生当初から「事象」と呼び続けている。使用済み核燃料プールの冷却が二十九時間も止まるという重大事は、単なる出来事や自然現象なのだろうか。
二十日の記者会見で東電の尾野昌之原子力・立地本部長代理に問うと、「『事象』か『事故』かは神学論争的な話」とした上で、「原子力の世界では、外部に放射性物質が出て、影響を与えるようなら事故だが、そうでなければ事故とは呼ばない」と言い切った。
ただ、二年前、1、3号機の原子炉建屋で水素爆発が起き、土煙とともに放射性物質をまき散らした際にも、東電も政府も「爆発的事象」と言い続けていたのも事実。
「事象」は深刻な事態を小さく見せようとする原子力関係者特有の言葉と受け止められることが多い。にもかかわらず東電がこの言葉を安易に使い続けていては、信頼を回復する日は遠い。

けれど、この「事象」という言葉、東京電力特有の言い回しではない。
国際原子力事象評価尺度

国際原子力事象評価尺度INES、International Nuclear Event Scale)とは、原子力事故・故障の評価の尺度。国際原子力機関 (IAEA) と経済協力開発機構原子力機関 (OECD/NEA) が策定した。
1990年より試験的に運用され、1992年に各国の正式採用を勧告した。同年に日本でも採用された。

この尺度で言えば、今回の「停電事故」は単なる停電としては「事故」(accident)であっても、原子力施設事故としては「事象」(incident)に相当する。
記者が、

二年前、1、3号機の原子炉建屋で水素爆発が起き、土煙とともに放射性物質をまき散らした際にも、東電も政府も「爆発的事象」と言い続けていたのも事実。

と反論しているが、保安院は3月12日の水素爆発直後に「事業所外への大きなリスクを伴わない事故」に相当するレベル4にやっと引き上げている。つまり、この時点で初めて「事故」扱い。まあ、実際にはこれでものんびり過ぎて3月18日にレベル5(事業所外へリスクを伴う事故)、一カ月後の4月12日になってやっと暫定的にレベル7(深刻な事故=過酷事故)に引き上げている。
東電は一応INES尺度を順守して、しかも慎重すぎるくらい慎重に順守して言葉を使っていることが伺える。
では、今回の停電事故で東電は「事象」という言葉を使ったのは適切だったのか。INES尺度では、実は「事象」(incident)ですらない現象も定義されている。
レベル1(逸脱、anomaly)とレベルゼロ(尺度以下、deviation)だ。
今回、東電が「事象」と認めたことは一応レベル2(異常事象)以上だと認識していることになる。レベル2は「かなりの放射性物質による汚染/法定の年間線量当量限度を超える従業員被曝」「深層防護のかなりの劣化」だ。もっとも、既に暫定レベル7の状況で、こういう定義はナンセンスだろうけれど、二次事故と再定義すれば、停電が継続する可能性があったことを考慮すれば「かなりの放射性物質による汚染」「深層防護のかなりの劣化」(ネズミごときでやられちゃうこと)も妥当な見方だった。
あの東電が「逸脱」とも「尺度以下の事象」とも言わなかったのだから諒とすべきじゃないか。
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