意味不明なバイオ燃料の「ガソリン比50%削減基準」

バイオ燃料に原料の壁 CO2排出基準厳格化、適合農産物わずか(日経)

経済産業省は5日、環境、農林水産の両省と合同で設けたバイオ燃料に関する検討会の報告書を発表した。バイオエタノールなどの製造や輸送時に排出する二酸化炭素(CO2)をガソリンと比べて50%以下とする新たな基準を設ける考えを正式に示した。経産省は今夏にも石油会社に新基準を義務付ける方針だが、適合する原料は限られており、調達が大きな課題になる。
 報告書は欧州連合(EU)がガソリンと比べたバイオ燃料のCO2排出量を50%以下にする基準を設けることなどを挙げた上で、「日本としても削減基準を50%に設定することが一つの方向性」と指摘した。

ここで言う「ガソリンと比べた」というのがよく分からない。元の報告書 を読むと、

バイオ燃料については、LCA( Life Cycle Assessment)での実際のCO2削減効果や食料競合、生態系の破壊、供給安定性といった問題が顕在化しています。
こういった背景を踏まえ、欧米においては、LCAによるCO2削減水準、食料競合の回避や生物多様性保全という項目についてバイオ燃料の持続可能性基準を既に策定しているところであります。

とした上で、

○ガソリンのCO2排出量に比較してLCAのCO2削減水準が50%以上あるのは、ブラジル産の既存農地のサトウキビ、国産の一部(てん菜、建築廃材)のみ。
※ブラジル産サトウキビ由来でも森林を開墾した場合には、ガソリンの約3倍のCO2を排出。
LCAのCO2削減水準について、EU50%削減(2017年以降)、英国50%削減(2010年以降)と設定していること等を踏まえ、我が国としてもLCAのCO2削減水準として50%を設定することが一つの方向性。

EU並のCO2削減水準50%以上を満たすバイオ燃料で我が国が調達可能なものは現時点ではブラジルの既存農地分と一部の国産に限定。
ブラジル産の既存農地分の輸出拡大には相当の限界(現在原油換算20万kl)がある。なお、国産については2020年に原油換算40万KLの増産が可能との試算あり(農水省試算)
○エネルギーセキュリティの観点から、高い自給率を目指すことが必要(現在、日本は3%のみ。米国99%、EU60%)。国産及びアジア域等での開発輸入で50%以上を確保することが一つの方向性。

とある。(他の参照)
ところで、言うまでもなく、原油からガソリンを精製するまでの過程でも、原油の採掘、輸送、精油の過程でガソリンそのもの以外のCO2が排出される。そのガソリンのLCAについては、添付資料の「3.1.9 化石燃料との比較方法」で示されているが、一番肝心のガソリン比50%以上削減という意味が不明瞭だ。単にEUに右に倣え以外の根拠が見つからない。
バイオ燃料の場合、化石燃料起源のCO2はLCAのみで燃焼過程ではゼロだ。そうすると、LCAのみでガソリンの排出量の50%食うと×ということになる。大体、そんなにバイオ燃料はガソリンに比べてLCAでの排出が多いのかにわかには信じがたい。
バイオ燃料LCAにはトウモロコシやサトウキビを育てる際の森林伐採などに伴うCO2排出分も含まれている。これらは化石燃料起源ではないのでカーボンニュートラルだから含ませるべきではない。
再生可能エネルギーという概念があるように再生可能CO2排出という概念も可能なのだから、化石燃料起源と比化石燃料起源との峻別がされていないのだ。これではご都合主義になり、科学的には×だ。
こんな曖昧な仕分けでは、食糧増産のためなら森林伐採はOKだが、バイオ燃料のための森林伐採ならガソリンより劣るからダメということになる。ならば、当初は食糧増産のために森林伐採し、その後、バイオ燃料のために使えばLCAにおけるCO2排出は激減することになる。馬鹿馬鹿しい計算法だ。なぜ変梃りんなのかと言えば、過去に伐採した森林のCO2排出は問わず、今現在の森林は伐採すればCO2排出とみなしている点だろう。
何かカーボンニュートラルという概念が恣意的に解釈されている。化石燃料起源のCO2を排出しても、それに相当する植林をすればカーボンニュートラルと見なされるのだが、こんなみなし規定ナンセンスだ。地下に死蔵されたCO2と植物がバイオマスとして蓄えたCO2とは全く性質が違う。前者は地表から完全に隔離されているのに対し、後者はいくら植物として貯蔵されたとしても地表の炭素循環の1プロセスとして存在することには変わりなく、全然カーボンニュートラルではない。見かけ上、大気中のCO2の加減がニュートラルに見えるだけだ。
本来のカーボンニュートラルとは化石燃料を地表から出さないという意味であるべきで、そう定義づけしないと、地表に流通するCO2は偽りのカーボンニュートラルとともになし崩し的に増えていくことになる。
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