小出裕章氏の危うい地球温暖化観

小出裕章京都大助教と言えば、今や脱原発のヒーローであり、実際にヒーローと言っていいとは思う。ただ、小出氏の地球温暖化に関する認識はかなり怪しいことも事実だ。
終焉に向かう原子力と温暖化問題2010年1月19日京都大学原子炉実験所 小出裕章

IPCC が依拠している地上の温度観測データの信頼性に問題があることも指摘されていますし、昨年11月には、温暖化しているとして示されてきたデータが実は偽造されていたことも発覚しました。現在、そのことが深刻な問題として取り上げられるようになってきて、「ウォーターゲート」事件をもじって「クライメットゲート」事件と呼ばれています。

ただし、二酸化炭素地球温暖化の原因だと言うのは、後に述べるように科学的に正しくありません。
また、温暖化した時にどのような影響が出るかについても、大きな不確かさがあります。北極の白熊が絶滅するとかいう主張に至っては宣伝用の誇張です。それでも、影響が現れた時には遅すぎるという主張は成り立つでしょうし、予防原則を適用して、二酸化炭素の放出を抑えるべきだと言う主張も成り立つでしょう。しかしそれは科学的な判断ではなく、あくまでも政策的な判断にすぎません。

この論考は地球温暖化を否定するものではないのだけれど、ちょっと勘弁してほしい、という点が多々ある。
まず、あの捏造の捏造であるクライメートゲート事件を無批判に受け入れているところ。科学者も分野が異なると、こうもナイーブになってしまうものかと脱力してしまう。白熊の絶滅云々はいいとして、「科学的な判断ではなく、あくまでも政策的な判断にすぎません」と語るのも意味があるようで意味がない。科学的知見を政策に反映するのは当然、「政策的判断」であって、わざわざ断るまでもないことだ。
さらに小出氏が原発二酸化炭素を排出しないというのは嘘だという論拠だが、これもかなり欠陥がある。

原子炉を動かそうと思えば、「ウラン鉱山」でウランを掘ってくる段階に始まり、それを「製錬」し、核分裂性ウランを「濃縮」し、原子炉の中で燃えるように「加工」しなければなりません。そのすべての段階で、厖大な資材やエネルギーが投入され、厖大な廃物が生み出されます。さらに原子炉を建設するためにも厖大な資材とエネルギーが要り、運転するためにもまた厖大な資材とエネルギーが要り、そして、様々な放射性核種が生み出されます。これら厖大な資材を供給し、施設を建設し、そして運転するためには、たくさんの化石燃料が使われざるを得ません。結局、原子炉を運転しようと思えば、もちろん厖大な二酸化炭素が放出されてしまいます。この事実があるため、国や電力会社も「発電時に」と言う言葉を追加せざるを得なかったのでした。しかし、「発電時に」と言うことが原子力発電所を動かすことを示すのであれば、原子力発電所の建設にも運転にも厖大な資材や化石燃料を必要としているのですから、その宣伝もまた正しくありません。

言われていることはその通りなのだけれど、このプロセスにおける二酸化炭素排出は原発に限らず、火力発電であろうがダム式水力発電であろうが全てに当てはまる。もちろん発電所ばかりでなく、普通のビル建設だってそうだし、どんな製品にだって当てはまる。原発だけが「実際には二酸化炭素を排出している」ではないのだ。勝手な推測だが、人間の作った人工物の中で重量当たりで言えば、一番二酸化炭素を排出しているのは小さくて何でもできるスマートフォンかもしれない。けれど、スマホ地球温暖化を加速する、なんて言う人はいないだろう。
それはともかく、決定的な誤りは以下の件だろう。

厖大な温廃水
今日100万kWと呼ばれる原子力発電所が標準的になりましたが、その原子炉の中では300万kW分の熱が出ています。その300万kW分の熱のうちの100万kWを電気にしているだけであって、残りの200万kWは海に捨てています(図67)参照)。私が原子力について勉強を始めた頃、当時、東大の助教授をしていた水戸巌さんが私に「『原子力発電所』と言う呼び方は正しくない。あれは正しく言うなら『海温め装置』だ」と教えてくれました。300万kWのエネルギーを出して200万kWは海を温めている、残りの3分の1を電気にしているだけなのですから、メインの仕事は海温めです。そういうものを発電所と呼ぶこと自体が間違いです。
その上、海を温めるということは海から見れば実に迷惑なことです。海には海の生態系があって、そこに適したたくさんの生物が生きています。100万kWの原子力発電所の場合、1秒間に70トンの海水の温度を7度上げます。東京にある河川では、荒川で1秒間に30トン、多摩川で40トンしか水量がありません。日本全体でも、1秒間に70トンの流量を超える川は30に満ちません。原子力発電所を造るということは、その敷地に忽然として暖かい大河を出現させることになります。また、7度の温度上昇が如何に破滅的かは、入浴時のお湯の温度を考えれば分かるでしょう。皆さんが普段入っている風呂の温度を7度上げてしまえば、決して入れないはずです。しかし、それぞれの海には、その環境を好む生物が生きています。その生物たちからみれば、海は入浴時に入るのではなく、四六時中そこで生活する場です。その温度が7度も上がってしまえば、その場で生きられません。
ライフサイクル全体を評価したと言っている原子力推進派の評価では、この温廃水についての考慮はありません。でも、地球上の二酸化炭素の大部分は海水に溶けており、海水を温めれば、二酸化炭素が大気中に出てきます。ビールやコーラなど炭酸飲料を温めれば、二酸化炭素がぶくぶくと泡になって出てくるのと同じです。では、1秒間に70トンの海水を7度温度を上げると一体どれだけの二酸化炭素が大気中に追い出されてくるでしょうか? 例えば、15℃の海水を22℃に温める場合を考えてみましょう。15℃における二酸化炭素の水への溶解度は2.00g-CO2/kg-water、22℃のそれは1.62-CO2/kg-waterです。そのデータを下に計算すると、それだけで1kWh当り100gになります。
ライフサイクル全体を考えて22gだなどと言っていた原子力推進派の主張が如何に馬鹿げているか分かります。もちろん、太陽光にしても風力にしても海を温めることなどありませんので、この効果を考慮に入れただけで、原子力はあらゆる自然エネルギーに比べて二酸化炭素の放出量が多くなります。

原発が海水を温めて二酸化炭素を大気中に放出することと、化石燃料を燃やして二酸化炭素を放出することとは根本的に全く違う次元の話だ。
炭素流通量は確実に増えている」や「炭素本位制ノート1」「地球温暖化=生態系インフレーション理論」でも述べた通り、化石燃料は地球表面の炭素循環の絶対炭素流通量を増やして地球温暖化バブルを引き起こしている。これに対し、原発が海水を温めて二酸化炭素を大気中に放出するのは同じ地球表面上の炭素循環の中での炭素交換であり、二酸化炭素の絶対流通量の増加に対して中立的だということ
もし、これを問題にするなら原発に限らずありとあらゆるエネルギー消費は熱を環境に放出しているという点で海水の二酸化炭素の放出を促進していることになる。これはほとんどナンセンスと言っていい見た目だけの錯覚だ。
それを言うなら地球に降り注ぐ太陽エネルギーは人類の消費エネルギーの1万倍と言われており、その大部分は地球の表面積の7割を占める海の海水温度の上昇に充てられている。原発による海水温上昇などこれに比べれば誤差の範囲、いや、誤差の範囲ですらない。
実際、海水と大気の間では、炭素換算で毎年約90Gt以上の二酸化炭素が交換されており、その交換量は化石燃料による二酸化炭素の排出の20倍近い。そして、単純な人工的エネルギー放出(太陽エネルギーの1万分の1)よりも、二酸化炭素温室効果の方が大きいのは明らかだ。
小出氏が原発を『海温め装置』とするなら、海水温の上昇を心配する前になぜ原発はかくも膨大なエネルギーを無駄に捨てなければならないかを説明して欲しい。一般に考えれば、コージェネなどで排熱を再利用できる筈と思うのだが、なぜ原発に限ってそれができないかを説明すべきだろう。
小出氏は「二酸化炭素はこの地球にとって絶対に必要なもの。植物が光合成二酸化炭素を取りいれるもの。それが何か悪者のように言われている」と言ったかなりナイーブなことをラジオインタビューで語っている。

一般向けだから仕方ないのかもしれないが、二酸化炭素が日常的に有り触れた必要な物質だから排出しても構わないとしたら愚かだろう。それは「脂肪や砂糖は毒物でないからいくら取っても問題はない」と糖尿病患者に言っているようなものだ。放射能の危険のある原発はそれ自体が抑止力になるが、二酸化炭素はあまりに日常的なガスである故に抑止力が効かず、今後もダダ漏れする恐れがある。
実際、仮に全世界の原発福島第一原発のように一斉にメルトダウンしても人類が滅亡することはないだろう。相当深刻な被害、死者が出ることは確実だが。
一方で、地球温暖化は下手すれば、人類滅亡につながる。現実に今、地球で起きていることは、地球史上始まって以来の二酸化炭素大逆流なのだ。これまでの地球はせっせと二酸化炭素を地中にため込んで1億年にほぼ1%の割合で上昇している太陽エネルギーに抗って地表温度を一定に保つように自律的作用をしてきた。この大逆流が将来、何をもたらすかは未知の領域だが、これまでも地球では何度も生物の大半が死滅する大絶滅を経験している。地球温暖化バブルは「数億年に1度」の大絶滅の引き金になる可能性が高い。
それに比べれば、原発メルトダウンは46億年の地球の歴史から見れば下痢みたいなものなのだ。
ところで、私自身はどちらかと言えば減原発派だ。
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