EUのCO2排出30%削減案の欺瞞

先進国のCO2、EUが30%削減を提唱(日経) 「EUは野心的な目標を公約した。国際社会に対応を求めていく」。独環境相として議定書取りまとめに奔走した経験を持つメルケル独首相は9日の記者会見で強調。 「野心的」にあたる英語のambitiousには「大袈裟な」という意味もあるようだが、実態はこの意味に近い。
EU加盟国は全体では先進国かどうかビミョーだ。旧東欧圏のポーランドハンガリーチェコスロバキアスロベニアエストニアラトビアリトアニアルーマニアブルガリアが加盟している。加えてトルコが加盟を希望している。
30%削減というのは、例によって1990年比だ。
ところが、IEA STATICSによれば、ポーランドは例外的に1988年を基準にすることが認められており、1988年の二酸化炭素排出が約44800万トンだったのに対し、1990年は34800万トンと約4分の3に激減している。ブルガリアも1988年が基準年で、1999年には半分近くに減少している。
ルーマニアも1989年が基準年と認められており、実際の1990年より10数%多く、1999年には50%以上減っている。ハンガリーの場合は更に遡って1985〜1987年の平均が基準にすることを許されており、実際の1990年より15%ほど多い。1999年には経済破綻の影響で、そのみなし基準年より25.6%も減少している。
チェコスロバキアは額面通り1990年基準だが、同様に経済混乱で両国とも1999年には基準年比3割近く落ち込んでいる。
同様にスロベニアは内戦などの理由もあって基準年は1986年、旧バルト三国エストニアラトビアリトアニアに至っては基準年の排出量自体が不明で、分かっていることはGDPが1999年現在で3分の1から半分くらいに減少しており、二酸化炭素排出量も基準年から半分くらいに減ったと思われる。
つまり、ベルリンの壁が崩壊した1989年の以前と以降では経済の混乱で巨大な排出断層が出来ていたのだ。この排出断層を利用した最大の国がロシアであったことは以前書いたRussian Loophole in Kyoto Protocolの通りで、今回のEUの提案も基本的に同じメカニズムを利用した大風呂敷と見てよいだろう。
そもそも議長国のドイツにしてからが1990年10月に東ドイツと統合したばかりで、その影響で1999年には15%排出量が減少している。ドイツが環境優等生というマスコミの評判はこうした粉飾が無視されているからだろう。
更に面白いことに、EUに入れてもらえないトルコだけが1990年比で1999年には30%以上排出量を増やしていることだ。
こうしてみると、EU拡大と京都議定書戦略というのは、実はセットなのだという疑いが見えてくる。EUに加盟できるかどうかは、建前とは裏腹に元のコアな先進国EUが温暖化経済戦略で得をするか損をするかで決められている疑いすらあるのだ。少なくとも「EU地球温暖化対策に熱心」は幻想と見るべきだろう。
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