規制緩和進む結婚と進まぬ正社員

日本では「正社員」として就職することは企業と結婚することとほぼ同義だ。入社式とはすなわち結婚式だ。ところで基本的に個人と個人同士の結婚は生活水準と平均寿命の向上で晩婚化現象が起きているのに、「正社員」の“晩就化”なんて聞いたことがない。
無理を承知で大雑把に図式化すれば、
結婚⇔正社員
事実婚非正社員から正社員への昇格(但し出世するのは至難)
偽装結婚偽装請負(かなり無理があるのは承知)
愛人または売買春⇔契約社員非正社員
同棲⇔フリーター、非正社員
未婚⇔正社員になりたくてもできず無職
非婚⇒正社員になるのを諦めたか、最初からなりたくなかった
離婚⇔離職
再婚⇔再就職
(双方とも最初の時よりグレードが下がる傾向あり)
付録:永久就職⇔終身雇用、貞操重視⇔新卒重視

以上はまあ、精査すればつっこみどころ満載だろうが取り合えず。
一昔前までは、結婚適齢期というものがあって、特に女性の場合は、婚期が遅れるとオールドミスなんて後ろ指な言葉が一般だった。男性でも、一定の年齢を超えると、やはり社会人として「おかしな人」としてネガティブに捉えられていた。また、離婚すれば同様の「出戻り」などという後ろ指が待っていた。社会的に「ダメ人間」の烙印が押されたも同然なのだ。
ところが、この数十年、結婚における「年齢制限」は急速に規制緩和され、晩婚化が進み、一生独身でもことさら後ろ指をさされる確率は低まった。離婚しても、バツイチなんて箔が付くような昨今だ。
ところが、個人対組織となると、一向に「年齢制限」の規制緩和が進まない。お陰で就職氷河期世代は一昔前の婚期を逃した男女の悲哀を味わっている。彼ら彼女らは未婚のまま人生を過ごさねばならないという恐怖に怯えている。
再就職にしても企業ではいまだ一度離職した人間は「我慢が足りない」「協調性の欠ける」ダメ人間の烙印が押される。40歳を超えると、知識・技術・経験があろうがなかろうが画一的にドアが閉められる。例外はコネクションによる天下りか横滑りぐらいなものだろうか。
なぜ個人対個人の結婚の規制緩和が進み、個人対組織の規制緩和が遅々としているのか。これは単なる経済のグローバル化だけでは説明できない部分がある。荒っぽく言えば、年寄りの経営者側の脳内規制緩和が進んでいないことだろう。彼らは「結婚適齢期」がまだ死語でなかった時代に青春を過ごした世代だ。ここに遅効性の真因があるのではないかと。
「正社員」と「非正社員」の区別は今後もなくならないだろう。しかし、そのことと「偽装終身雇用」(池田信夫blog:「日本的経営」の偽善)維持とは別のことだ。終身雇用幻想を葬るには、逆に「正社員」の晩婚化を進めて「終身雇用」を無効化し、就職版バツイチがある種の勲章になるような空気を醸成するのが一番妥当な線だと思う。何のかんのと言って、日本は空気が変化しないと動かない社会だ。
一つの手は誰もが知るような超有名大手人気企業が思い切り正社員年齢制限大幅引き上げか完全撤廃を宣言することだろう。最近、トヨタ期間工を組合員にするというニュースが流れたが、あの程度ではまだまだ小手先の批判かわしの域を出ていない。かと言って、ただ企業の宣伝のために元主婦を社長に抜擢なんてのも鼻つまみものだが、現実に正社員晩婚化を断行すれば、宣伝効果は後から付いてくる。
もう一つ以前から不思議なのはなぜ企業は好景気の時に大量採用し、不景気の時に採用を手控えるのか。好景気の時は売り手市場で高値掴みし易く、現にバブル期に大量採用した人間の一部が不良債権化している。不景気こそ底値買いで宝の山を安く仕入れるチャンスではないか。
とは言っても、株価同様、買いと売りのタイミングは難しいのが現実だが、見ていると企業の採用姿勢はいかにも素人然とし過ぎている。トータルで考えれば「偽装終身雇用」による利益よりも、採用失敗による損失の方が大きい筈だが、それでも済んでいたのは、これまで右肩上がりが当たり前で表面化せず、真剣に採用を考えてこなかったからではないか。
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