ガチ☆ボーイ

gachi1小泉徳宏監督、佐藤隆太サエコ仲里依紗泉谷しげる。重い深刻なテーマと軽そうな学生プロレスとの組み合わせ。一見、バランスが合わないようで実に合っている。
司法試験にも受かる秀才なのに、記憶障害になって寝てしまうと寝る前の記憶が削除されてリセットされてしまうという五十嵐は、既に死んだ自分のアルバムを見るようにメモや写真を見る自分の存在に戸惑う。
gachi2その悲痛さは明るく楽しい安全第一のプロレスのシーンよりも、それ以外のシーンで表現される。自分の部屋に貼られた写真を見る五十嵐。サエコとのバスでの何度も何度も壊れたレコードのような愛の告白。使い古された寒い駄洒落に何度も噴き出す自分(いくら記憶障害でもあんなに笑うことはないだろうが)。その時、五十嵐は「自分は既に死んでいる」と感じたろう。
記憶障害という設定だが、本当はもっと深刻な社会テーマを表現しようとしているようだ。学歴や才能があっても、コミュニケーション能力に問題があったり、社会的に同調できない、空気読めないと、人格が認めてもらえずゴミ扱いされ、見捨てられるような社会。
それを受け入れてくれるのはガチンコじゃないプロレスというお約束事の世界。けれど、五十嵐にはお約束事をする融通はなくガチンコで何事もやるしかない。表面的な人情、お涙頂戴的なストーリーのオブラートに包まれた悲痛さが染み出てくる。その悲痛を忘れさせ、生きていることを実感させてくれるのが根源的な肉体的苦痛なのだから、この学生プロレスは五十嵐にとって、この社会の中で唯一のオアシス。プロレスの世界というのは、昔からそうだったが、表面の荒っぽさとは裏腹に相手を労わり合って初めて成り立つ世界だ。
gachi3gachi4五十嵐を支える妹役の仲里依紗は「ちーちゃんは悠久の向こう」で「死んだことを忘れてしまった少女」を演じたが、今度は「自分はもう死んでいるのじゃないか」と感じている男性を助けようとする役を演じる。この若さでこんなに飾らなく表情を豊かに表現できるのかと感心する。
それにしても佐藤隆太がプロレスやると、どうしても和泉元彌のプロレスと重なって見えてしまう。
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