悲しみが乾くまで〜サブプライムな2人

twlitf公式サイト。原題Things We Lost in the Fire(私たちが火事で失ったもの)。スサンネ・ビア監督、ハル・ベリーベニチオ・デルトロ。舞台がシアトルの住宅街だけで2時間の作品。一見、焦点が定まらないように見えるが、2人の葛藤が濃密な時間の中で流れている。
原題にある通り、一家は過去に火事に遭っている。しかし、その時もなぜそんなに冷静でいられるのかと聞かれて夫のブライアンは「失ったのは物だけだ。僕らは無事だったから大丈夫だ」と、模範的過ぎる優等生なことを言う。
そういうブライアンの死が唐突だ。他人の夫が妻に暴行しているのを仲介したら夫に銃殺されるというのは、いくら何でも唐突過ぎる。とにかく善良で非の打ち所がないブライアンを何がなんでも不条理に死なせなければ話が始まらない、という強引さが感じられるのが残念。
妻のオードリー(ハル・ベリー)にはブライアンを愛していながらも完璧すぎる人格者の夫に何かフラストレーションを感じていることが仄見える。夫の物足りなさのはけ口の逃避先をジェリーに見出していた節がある。ただ亡くなった夫に代わってヤク中に苦しむジェリーに恩情を施したわけではないだろう。「なんであなたが死なず夫なの」などなどキツ過ぎる癇癪玉を落とすが、あけすけなのは同じ夫の記憶を共有する者への親愛の情の裏返し。
一方の夫の幼馴染の親友ジェリー(ベニチオ・デルトロ)が有能な弁護士だったのになぜ薬中になったのかも分からない。なにげなく感じられるのは、薬物中毒になっても自分を見捨てないほどの無二の親友ブライアンに相反する嫉妬の感情があって、妻のオードリーに横恋慕していたのではないかということ。この物語の隠された主題は無二の親友の妻に横恋慕して板ばさみに悩み、麻薬に逃避してしまった男の物語とも見れる。ジェリーがオードリーに「世界で一番美しい」と言ったのは、温情に恩を感じたからだけでもなさそうだ。
しかし、2人の間に夫は死んでも消えることはない。キスもベッドも結局ニアミスで終わる。ジェリーも子供に問われて「僕が父さんになれば、ブライアンの存在が消えてしまうことになる」と戸惑う。
ラストの「Accept the Good」(善は受け入れよ)のカードとは、善良で堅実なブライアンのような生き方をしよう、という意味だろう。
住宅バブル絡みか、金利の上昇が話題にされる。恐らくデベロッパーのブライアンも住宅バブルに乗ってそれなりに成功したのだろう。オードリーがジェリーを居候させる口実に住宅ローンの返済が大変だから賃貸料が欲しいと言うが、実際には堅実なブライアンが既にローンを完済している。しかし、2人の心のサブプライムローンは破綻寸前だ。再起をかけるジェリーも「Residential lending Mortgage」(住宅担保貸付)の教本を読んで再就職を図る。
ここら辺、何か麻薬中毒と、その後のサブプライムローンの金融破綻という予兆とが微妙にパラレルになっているようでもある。アメリカはサブプライムローンという麻薬中毒の危機から立ち直れるのか。
トリビア的には、ハル・ベリーの目が恐ろしくドアップされるシーンが多用されている。一方で自慢のボディだが、プールから上がった半ケツ状態の水着を繕うシーンがちらり。けれど、こちらはドアップしてくれない。
Clickで救えるblogがある⇒人気blogランキングにほんブログ村 映画ブログへ