ファーストフード・ネイション

fastfoodnation公式サイト エリック・シュローサー原作、リチャード・リンクレイター監督、グレッグ・キニアイーサン・ホークパトリシア・アークエットブルース・ウィリス。ファーストフード業界の裏を暴く作品という触れ込みだけれど、実際には、業界を近接撮影しながら、グローバル経済での日常のなんたるかを淡々と描いた作品で、いまやアメリカだけの日常ではなくグローバルな日常だ。
実際、それほどの意外性はほとんどない。化学薬品で色々な味や香りを出すというのは日本の外食、コンビニ食でも使われていることはあまたの本で紹介されている。牛糞がハンバーガーのパテに含まれていると言っても、ブルース・ウィリス(日本風で言えば、特別出演、友情出演なのか)が言っている通りで、腸に入っていた糞がたまに紛れてはいるということで大勢に影響はない。ここらへん、中国の毒ギョーザ事件と次元が違う。
牛の糞尿で川が汚染されると言われても、ピンと来ない。環境保護団体なら牛糞をバイオ燃料(インドでは乾燥して燃料にされている)にするとか再利用を考えるべきだろう。最も大部分は何もしなくても牧草の肥料になっているはずだが。
サーロインの部分はラインに乗せるな、なんて、そりゃそうでしょうというしかない。
メキシコ不法移民だって、別に安さの秘密でもないだろう。工場をメキシコに移せばもっと安くなるはずで、むしろ高い給料もらえる分、恵まれている。
トリビア的に言えば、美人メキシカンが工場に採用される際の引き換えとして行われる、車を揺らしながらのセックス、これがまた工場のベルトコンベアのラインと同様のノリで描かれているところが笑いどころか。揺れている車が工場の機械の一部のような感じで。これもまたマニュアル化した世界で生きてきた工場現場監督のマニュアル的儀式の風情だ。
牧場が削られて広がる住宅地が出てくるが、これ、もろサブプライムローンな住宅地という感じがする。1990年ごろだったか、ハンバーガーコネクションというのが言われ、ハンバーガーの安い牛肉のために中南米の熱帯林が破壊されて牧場が造成されていると非難されたが、ここなんかを見ると、立場は逆転してきていることも仄めかされている。
この映画が単にファーストフード帝国との戦いという単純な図式ではなく、より利益が上がるなら無表情にLand Use Changeが進行することがさらりと描かれ、テーマはグローバル経済の無表情な変化の契機が日常を覆っているということだろう。
将来は宇宙飛行士になりたいという女子学生のフリーターが環境保護サークルと一緒に牧場の柵を破壊しても牛が逃げないのに訝るが、逃げたいのは彼女であって牛は逃げたくない、それだけだ。あの逃げない牛たちは、実は、色々噂があっても、日常的に何変わることなくハンバーガーを食っている我々だろう。
牛を殺す場面で「ノーカントリー」に殺し屋の秘密兵器として登場していたキャトルガンが真っ当に本来の目的で使用されているのにニヤリとする。そう言えば、「ノーカントリー」のロケーションもメキシコ国境と共通していて、どこか雰囲気が似ている。古き良き時代を懐かしむold menが出て来るのも同じ。あの殺し屋だって、無表情にマニュアル的に殺していたし、グローバル経済の無表情と重なる。
告発調という先入見を持って見るとつまらないが、普通の映画として見るとなかなかのもの、という印象は同じようにグローバル経済を扱った「ダーウィンの悪夢」と共通するところがある。
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