牧野洋氏のトンデモM&A論

マル激トーク・オン・ディマンド:世界が嗤う日本のM&Aゲストの牧野洋氏によると、マイクロソフトのヤフー買収提案に関して、買収を拒否すればヤフーは株主集団損害賠償訴訟を起こされるという。おかしな話だ。
牧野氏によると、マイクロソフトが1株31ドルで買収提案した時、ヤフーの株価は20ドル程度だった。その後、マイクロソフトの提案にさや寄せする形でヤフー株は30ドル程度に急騰した。もし、その後、ヤフーが拒否し、マイクロソフトが買収を断念すれば、プレミアム分の株価が剥げ落ちて20ドルに戻って株主は損をするからだという。
こんな話を聞かされると、牧野氏という経済ジャーナリストは、市場というものを知っているのだろうかとそもそもの疑念が生じる。本当にそんな損害賠償訴訟起こされているのか調べたら、まずヒットしたのは牧野氏自身が書いているNBonline:独立守っても安心できないヤフー 損害賠償リスクを負う米国、株価半値でも無風の日本だ。
日本ではあまり認識されていないが、マイクロソフトが買収を断念すると、ヤフーは大きなリスクを抱え込みかねない。ヤフー株が急落し、大規模な株主訴訟が起きるのは必至と見られているからだ。ヤフー経営陣が恐れなければならないのは、マイクロソフトが「ヤフーには愛想が尽きた」と言い、興味をなくす展開かもしれないのだ。
代表訴訟ではなく、株主自ら損害賠償に動く米国
「株主訴訟」と言うと、日本では自動的に「株主代表訴訟」が連想されるが、米国は違う。株主が自らの損失を取り戻すために起こす損害賠償訴訟が一般的だ。(中略)一方、経営上の失策などで株価が急落した場合、直接的な損害を被るのは会社ではなく株主であり、株主代表訴訟にはなりにくい。マイクロソフトが買収提案を引っ込めた場合、ヤフーの株価はどれくらい下がるだろうか。

牧野氏は「米国では一般的」と言っておきながら、実際、具体例は示していない。CNETには米ヤフー、マイクロソフトの買収提案めぐり株主から提訴されるという記事があるが、中身が全然違う。拒否して損したからではなく、買収は株主にとって利益だから買収に応じろ、ということで、言い換えれば、買収に応じなかったら株価が下がって損するから買収に応じろ、という勝訴が目的というよりも圧力をかけるための訴訟戦術だ。牧野氏の言っていることと真逆だ。
番組で牧野氏があげていたワールドコムだのは、企業の不正による損害賠償を求めたもので、全く性質が違う。ちなみに、日本では株主が訴訟を起こさないというのも嘘で、実際、ライブドアに対して訴訟が行われている。
マイクロソフトの買収提案を期待してヤフー株を買った投資家は投資家の自己責任で思惑買いしたものだ。投資家が思惑が外れて損したから損害賠償が認められるのなら、市場自体が成り立たなくなる。ヤフーの経営陣が投資家の思惑までに責任を持つ法的根拠なんてあるわけないだろう。それが通用するなら、ヤフーは買収提案されて株価が高騰したた時点で検討の余地もなく提案を呑まざるを得ず、経営判断を否定しているのも同然だ。投資家は株式市場で100%安全に儲けられることなる。たとえば、企業が発表する来期の収益見通しが外れて下方修正してしまったら、損害賠償訴訟にさらされることになる。(もちろん、企業が自分の企業価値を高めるためにわざと見通しを大甘に公表して、インサイダーが売りぬけすることは有り得ることだけれど、その場合はまた別だ)もし、そのような訴訟が横行しているのなら、その種の訴訟自体がかなり如何わしいものと見るべきだろう。
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