天国はまだ遠く
公式サイト。瀬尾まいこ原作、 長澤雅彦監督、加藤ローサ、徳井義実、河原さぶ、絵沢萠子、郭智博、宮川大助、南方英二、藤澤恵麻、板東英二。若い女性がタクシーで「闇の奥」に引き付けられるという出だしは「七夜待」と共通。けれど、この映画には熱帯的解放感はない。
実は、この映画では経済的原因は別だろうけれど、人生そのものに倦んだ自殺願望に対するの特効薬が呈示れている。爆睡すること。ほとんどの自殺願望というのは脳味噌の極度の疲労から来ると思われる。懊悩⇒睡眠不足⇒懊悩の悪循環だ。千鶴(加藤ローサ)が睡眠薬を大量に飲んで眠ること32時間。目覚めた千鶴は食欲旺盛、元気有り余って、民宿の主人田村(徳井義実)を唖然とさせる。映画では、地方の生活が癒したかのごとくになっているが、そんなもんじゃないだろう。
一つ屋根の下の男女とはいえ、「襲わないで下さい」と懇願するのだから、いい気なものだと言われても仕方ない。そう言っても、爆睡のビフォーアフターでは千鶴が既に違っているのだから文句言っても仕方ないのだけれど。
しかし、田村の立場からすれば、元自殺志願者に「襲わないで下さい」と言われても、イマイチ生きる力が出ないだろう。田村も「人を殺した」傷があり、千鶴が自殺に来たと感づいているのだけど、千鶴を癒しても自分は癒されない不公平感が漂っている理由はここら辺にありそう。
もっとも、田村も32時間放ったらかしてというのはどうなんだろう。普通は心配して部屋をのぞき、睡眠薬見つけて119番のはずなんだが。ということは田村も意外と能天気で「やれやれ、かもな」程度だったと推定される。意外と2人とも傷つきながらもマイペースな人たちということになる。脚本がそう意図されていればの話だが。
千鶴だって鈍感ではない。田村の止まったままの腕時計を直してあげたのは千鶴だ。止まった時計の意味も感づいたに違いない。あの民宿の部屋の壁の穴だって客の夫婦喧嘩ではないことは確か。
そば打ち、鶏絞め、魚釣り、満天の星空と田舎体験ツアーの定番。しかし、公式サイト見ると、ロケ地には自殺の名所という眼鏡橋だけは紹介されていない。そこだけは異次元の空間で千鶴は自殺したくて見に行ったのではなく、ほのかな恋心を感じている相手の過去を少しだけ垣間見たかったのだろう。民宿に戻れないのは相手の相手への気遣いだろうか。
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