アラトリステ(ALATRISTE)
公式サイト。アルトゥーロ・ペレス・レベルテ原作、アグスティン・ディアス・ヤネス監督。ヴィゴ・モーテンセン、エドワルド・ノリエガ、ウナクス・ウガルデ、ハビエル・カマラ、エレナ・アヤナ、アリアドナ・ヒル。17世紀のスペインの剣士、あちらの宮本武蔵と期待すれど、決闘シーンは少なくて散漫。ヨーロッパの古典文学がベースになっていて、非ヨーロッパ文化圏の日本人にはかなり楽しみにくい。
アラトリステ役のヴィゴ・モーテンセンはメジャーリーグの大投手ランディ・ジョンソンを思わせる風貌。写真のシーンなどはむしろ「荒野の七人」風西部劇を思わせる。
ところが、ただの剣客物ではなく、文学的な台詞がむしろ印象的。地位もなく貧乏だが誇りを持った教養人という風変わりな剣士アラトリステは「人生はクソだ」と言い放つ。何のために殺し合うのかという大義を既に失っていて騎士道の衰退を体現しているようだ。従者のイニゴ・バルボア(ウナクス・ウガルデ)も相手を刺した後、「死後は何もないぞ」と言い、刺された側も「それが問題だ」と逆ハムレット風のギャグを飛ばしている。もう、これは来世の否定、キリスト教の否定だろう。
アラトリステとイニゴの関係も「ドン・キホーテ」のキホーテとサンチョ・パンサの関係を擬しているようだ。実際、イニゴは「ドン・キホーテ」の熱心な読者だ。また、キホーテがオランダを象徴する風車に負けるという有名な話も、そのまんまこの物語に取り入れられているようで、オランダとの確執が描かれ、ラストは相手がフランスだが、アラトリステの誇り高いスペイン兵士としての死に場所になる。
英国人旅行者チャールズ1世暗殺未遂事件の首謀者がスペイン異端審問所長官ボカネグラ神父というのは「ブーリン家の姉妹」で描かれていたイングランドのカソリックからの離脱、イングランド国教会立ち上げと直に絡んでいる。また「宮廷画家ゴヤは見た」とは時代が100年以上遡るが、この映画ではディエゴ・ベラスケスがアラトリステをモデルに描かれたという設定で実際の絵がさりげなく登場している。この映画の映像自体、絵のように美しい。実在の人物としては他にフランシスコ・デ・ケベードがアラトリステの友人として登場する。
こうしてみると、日本人はスペイン人の数分の1しか楽しめない気がする。
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