郷原信郎氏の法解釈を超えてしまった小沢一郎問題

マル激トーク・オン・ディマンド:検察は説明責任を果たしているか この番組で郷原信郎氏が述べている要点は、
1.小沢一郎氏の政治団体の選任及び監督責任
2.大久保隆規公設秘書起訴後のNHKの「起訴事実を認めている」報道の「誤報
の問題。
1.については、
逮捕直後に捜査関係者の話として、秘書の逮捕によって小沢氏にも監督責任があるかのような話がリーク報道されていたが、長崎地検次席検事として政治資金規正法違反の捜査を指揮した経験を持ち、この法を熟知する郷原氏は、政治資金規正法の条文では「選任および監督」の責任となっているため、監督責任だけでは政治家本人の罪は問えないことを強調する。最初から明らかに無能な人間を会計責任者に任命したことが立証できなければ、今回の場合小沢氏の罪は問えない。特捜部はそれを十分確認しないまま小沢氏の秘書を逮捕してしまった可能性を郷原氏は懸念する。
番組のホストの宮台真司ブログで同じ解説をしている。
これは、産経新聞:小沢氏監督責任も 起訴なら失職の可能性 政治資金規正法 規正法は、政治団体の代表者が、会計責任者の選任と監督について相当の注意を怠っていた場合、50万円以下の罰金を科すと規定している。起訴されて規正法違反罪で罰金刑になると、裁判官の判断によっては公民権が停止され、被選挙権を失う。国会法の109条は、現職の衆院議員が衆院議員選挙の被選挙権を失った場合、自動的に失職すると規定している。
の記事を受けて、産経記事には「選任」が欠けているというのものだけれど、現実に小沢氏は事情聴取受けていないから今更感はあるのだけれど、厳密には郷原氏の法解釈もおかしい。
政治資金規正法25条 政治団体の代表者が当該政治団体の会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠つたときは、50万円以下の罰金に処する。
郷原氏の法解釈は番組によれば、法務局に問い合わせたら「選任」の解釈は「明らかに無能な人間を会計責任者に任命」した場合を想定していると答えたからだというのだ。しかし、こんなものは1行政府の法務省の解釈にすぎない。会計責任者が無能かどうかなど政治資金規正法は問うていないし、そもそも法務局がこの法律を作ったものでもなんでもない。法律を作ったのは形式的にせよ何にせよ国会だ。国会が作った法を法務局が解釈して押し付ける権利などどこにも根拠などない。法務局の解釈は単に参考指標にしか過ぎない。指標に過ぎない以上、それは可変なのだ。
つまり、東京地検が当局の解釈を無視して小沢一郎氏の「会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠つた」と恣意的に解釈しても法務当局の見解を無視したとは一概に断定できない。なぜなら、郷原氏が問い合わせた時と、現在の東京地検が「お伺い」をたてた時とでは法務局の解釈が変わっていたとしたら、それまでだ。
要するに、この条文は恣意的解釈を容認、あるいは解釈変更可能なほど意味不明なのだ。東京地検の解釈に対抗するには「相当の注意を怠ってませんでした」と言えばそれまでなのだ。怠る怠らないは内面の問題だし、それが「相当の注意」かどうかも計量不能郷原氏自身、この条文をじっと見詰めてどう解釈すればいいか迷ったくらいだから、一般的に意味不明と判断していいだろう。
では、意味不明な条文を「法令順守」する謂れなどそもそもあるのだろうか。あるわけがない。意味不明な条文をどうやって「法令順守」しようというのだろうか。
次に2.
郷原氏は、大久保氏が自白したとするNHKニュースについて、「西松建設から金が出ていたと知っていたと自白していたとしても、虚偽記載と無関係なので自白にも何にもならない」と番組で言っているし、「朝まで生テレビ」でも繰り返し述べていた。ちなみに、このニュースは大久保氏の弁護人が否定しているが、郷原氏は仮に起訴事実じゃなくて金の出所が西松建設だったことを知っていたという供述と仮定した場合の話だ。
確かにその通りだとは納得はするのだけれど、かといって、NHKニュースの報道がナンセンスだということにはならない。
この時点で既に政治資金規正法の解釈問題から離れていて、親分の小沢一郎氏は大久保氏逮捕直後の会見で「誰が金を出したかいちいちチェックしていない」と断言していたことと矛盾が生じている。ということは大久保氏はチェックしていたが小沢氏には報告していなかったか、小沢氏が嘘をついたか、どちらかになる。前者か後者かどちらにしても法的枠組みを超えた「政治的選任及び監督責任」という超法規的道義的問題に摩り替わっている。常識的に恣意的解釈すれば後者だろう。
もう問題のありかは意味不明な条文をこえて「言った言わなかった」という次元の低い政治問題に移行しているので、もう法律家の出番は少なくなるのではないか。裏返せば、東京地検の当初の目的は起訴段階で一応最低限は達成されたことになる。ただ、今のところ最終目標と思われる辞任は達成してないので、今のところ失敗というところだろう。テポドン2号にたとえれば、1段目ブースターの燃焼は成功、2段目ブースターは制御不能岩手県に落下するかどうか不明というのがオチというところか。
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