「社会主義」の意味はどんどん変容している

アゴラ」に掲載されている「よみがえる社会主義 - 池田信夫」を読むと、どうしても違和感がぬぐえない。ここで語られる「社会主義」って、実は人によって受け取り方がバラバラで、今世紀に入ってからはいっそうバラバラになっているということだ。

Rasmussen Reportsの世論調査によると、アメリカ人のうち「社会主義より資本主義のほうがいい」と思っている人は53%で、20%は「社会主義のほうがいい」と思っているそうです。特に30歳以下では、資本主義が37%に対して33%が社会主義と、拮抗しています。

と語られているのだけれど、その典拠の、
The Rasmussen Reports: Just 53% Say Capitalism Better Than Socialism
の調査に答えた人々のほとんどは池田氏の想定する「社会主義」と重ならないぐらい違った受け止め方をしている可能性が高いということだ。少なくとも生産手段の国有化云々とは既にかなりかけ離れている。
こんな金融危機の中でこんな質問をしたら、応えるアメリカ人のほとんどは、それは「あなたは野放図なグローバル金融資本経済がいいですか、規制強化がいいですか」と問われたにほとんど等しい反応をしているだろうことは想像に難くない。
反応は直近の、差し迫った問題に関連付けされるのが通常だ。元々世論調査とはそんなものなのだ。だから、それをもって「よみがえる社会主義」とするのは、もちろん、大袈裟を承知で書いておられるのだろうけれど、大袈裟だ。
社会主義」と言われても、一般に人は前世紀のようにソ連のような具体的イメージを思い浮かべられなくなっている。百人に聞けば百種類の社会主義の定義が発見されるだろう。それが今世紀の社会主義事情というものだろう。「社会主義がいい」と応えた人で、恐らく前世紀のソ連をイメージした人は皆無だろう。
また、

いいかえると、社会主義は一種のモラルハザードなのです

ねえ。モラルハザードなんて社会主義、資本主義問わず、人間2人寄ればいつでも起こり得る人間関係が基本でしょう。これも従来の保険用語のリスク保障が却ってリスクを高めるという意味から考えると、今回の金融危機リスクヘッジ(危険防護)が却ってリスクを高めたという意味において、逆に「金融資本主義は一種のモラルハザードなのです」と言えなくもない。今悪者扱いされているヘッジファンドの「ヘッジ」も元々「リスクヘッジ」という意味だから、世の中皮肉だ。
大体、経済の効率、非効率というのは、経済そのものが複雑すぎて何をもって効率、非効率なのか分かるものではない。適当なモデルを作っても、モデル内だけで決定されるだけで、どうにもならない机上の空論どまり。人間60億人寄れば60億通りの効率性があるわけで、ということは、結局、何がいい社会システムかどうかは、人々がどう反応し、どう望むかの言わば権力闘争に帰結してしまう。だから、
ある人が「階級闘争」と言ったとしても、必ずしも間違っていない。随分時代がかった表現とは思うけれど、それは「社会主義」の古典的定義に固執するのとさして径庭があるとは思えない。
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