池田信夫氏法人税引き下げ論の謎の軌道修正
財務省は租税特別措置の削減を交換条件にしようとしているが、日本経団連は強く抵抗している。他方、赤旗は「日本の法人税率は高くない」と、次のような調査結果を示している。どれが正しいのだろうか?.
正しいのは赤旗である。経常利益の上位100社というバイアスはあるが、日本の法人税がいかに歪んでいるかをよく示している。ニューズウィークでも書いたように、日本の大企業に対する実効税率は、租税特別措置(租特)を入れると必ずしも高くない。法人税収(国・地方)の9.7兆円に対して租特は5.9兆円もあり、国の歳入に占める法人税収の比率は5.5%で先進国では低いほうだ。(略)
平均の法人税率が40%なのに、財界系企業が30%以下だということは、法人税にも古い重厚長大企業を保護する「老人バイアス」があることを意味する。また企業の70%以上が赤字法人で、税金を払っていない。このように抜け穴だらけで課税ベースが小さいため、税率を下げられないのだ。赤旗のいうように「大企業優遇税制」をやめれば、税収中立にしても法人税率は25%まで下げられる。
エコノMIX異論正論:租税特別措置をなくせば法人税率は25%に下げられる(池田信夫)
政府が経済成長率を引き上げるためにできることはほとんどないが、経済成長のじゃまになっている要因を取り除くことはできる。日本の複雑な税制は、そのからくりを利用して節税できる既存の企業に有利になる一方、特別措置の恩恵にあずかれないサラリーマンや新しい企業に不利になっている。これをシンプルでわかりやすい税制にすることは、アジア諸国との租税競争の中で、日本が企業を引き留めるためにも重要である。
法人税率を下げろ、という論には変わってないのだけれど、今までの論とかなり論調が変っている。
JBPress:民主党の「企業いじめ」が長期停滞を招く2010.03.09池田信夫
タブーとされてきた法人税に民主党政権が踏み込んだことは注目される。日本の税制は、長く抜本改正を先送りしているうちに、世界の流れから取り残されてしまったからだ。
1980年代以降、世界各地のタックスヘイブン(租税回避地)が多国籍企業を引きつけ、そこに本社を移転したり金融取引を行ったりする企業が増えたため、各国が法人税率を競って下げる租税競争が起こった。その結果、80年代前半に経済協力開発機構(OECD)諸国の平均法人税率は約50%だったが、現在では約30%にまで下がっている。
ところが日本の実効税率はこの間に10%程度しか下がらず、図のように39.2%と主要国で群を抜いて高い(経済産業省調べ)。
JBPress:法人税率の引き下げで税収は増える2010.05.19池田信夫
日本の法人税率は主要国で最も高い。これが製造業が生産拠点を海外に移転する原因になる一方、海外企業が日本に進出する対内直接投資が増えない原因ともなっている。
右の図のようにOECD(経済協力開発機構)によれば、日本の対内直接投資の残高(2008年)はGDP(国内総生産)比で3.6%と、OECD諸国で下から2番目である。その結果、外資系企業のサービス業における売り上げシェアはOECDで最下位である。
経産省によれば、法人税を下げれば税収は増えるという。欧州連合(EU)15カ国では1995年から2007年にかけて法人税の実効税率が37.7%から28.7%に下がった。これは欧州では特にルクセンブルクやリヒテンシュタインなど法人税の低い国に本社が集まるので、近隣諸国も税率を下げざるをえないという租税競争が起こったためだ。
しかし、この競争によってEU域内の法人税収の名目GDP比は、2.2%から3.2%に上がった。経産省によれば、EU15カ国を法人税率の高いグループと低いグループに分けると、税率の低いグループの成長率が高いグループより約1%高い。これは国内の投資意欲が高まるとともに、海外企業の対内直接投資が増えるためと考えられる。
なぜ法人税率の引き下げが必要か - 池田信夫2010年6月6日
峰崎財務副大臣がG20で「OECDかIMFが法人税率の範囲を決め、引き下げ競争をやめるべきだ」と提案したそうです。これは日本政府としての正式提案なのでしょうか。だとすれば、民主党のマニフェスト原案と矛盾するのですが、どうなっているのでしょうか。民主党の掲げる「成長戦略」によって成長率の上がる見込みはないが、JBPressにも書いたように、法人税率の引き下げによって成長率が上がり、税収も上がる可能性が高い。
とまあ、半年で随分変わるものだ。半年前まで租税特別措置とか税金を払っていない大企業などのことなどおくびにも出していなかった。引用されている「赤旗」は2010年6月24日付なので同時期だ。というか、池田氏の一連の“無条件法人税引き下げ論”の直後の時期だ。
ところが、ここにきて“条件付き法人税引き下げ論”に路線変更されている。
まさか、「赤旗」が発表するまで租税特別措置も外国税額控除も研究開発減税なんていう“常識”知らなかったのか。ナフサ租特の話など当ブログ゙でさえ、昨年11月の段階で「ナフサ免税今まで廃止していなかったのが不思議」で取り上げていたのだから今頃そんなこと持ち出すのは周回遅れもいいところだ。
まさか、とは思う。けれど、そのまさかである可能性も否定できない。というのは、「池田信夫氏が1年がかりでコソーリ訂正していた件」という前例もあるのだ。
最初、気に入らない論は意図的に無視するか排除しているだけと思っていたが、案外そうではなく、実は単に本当に知らなかっただけの可能性が高い。後で知って、微妙に軌道修正するというのが真相なのかもしれない。とすると、今回に限らず、その他の数多の池田氏の論議も同じように拾い読みによる表面的な底の浅いというも愚かな書き殴りレベルの論議と考えるしかない。
まあ、別に池田氏に限らず、日本のエコノミストや経済学者のほとんどの論はこんな程度なのだろうから、驚くにすら値しないのだけれど。
池田氏風に言えば、民主党がいつまでたっても腰が定まらないのは、それをサポートすべき日本のエコノミストや経済学者のレベルが他の先進国に比べてあまりに低いからだろう。このままでは日本は取り残される、のだ。
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