LNT仮説についての誤解の仕方

低線量被ばくのリスクからがん死の増加人数を計算することについて 平23年9月8日 原子力安全委員会事務局
巷に流れる「LNT仮説で死亡者予測するのは間違っている」の根拠がこれらしいのだが、実際に読むと、この原子力安全委員会事務局のメッセージは「低線量被ばくのリスクからがん死の増加人数を計算する」ことを否定していない。否定できるわけがない。なぜならLNT仮説というのは死亡予測をするための仮設なのだから、それを否定することはLNT仮説そのものを否定するに等しいからだ。
きちんと読むと、こう書いてある。

UNSCEAR 2008 Report Vol.2, Annex D. “Health effects due to radiation from the Chernobyl accident”
98項 The Committee has decided not to use models to project absolute numbers of effects in populations exposed to low radiation doses from the Chernobyl accident, because of unacceptable uncertainties in the predictions. It should be stressed that the approach outlines in no way contradicts the application of the LNT model for the purpose of radiation protection, where a cautious approach is conventionally and consciously applied.
(委員会は、チェルノブイリ事故によって低線量の放射線を被ばくした集団における影響の絶対数を予測するためにモデルを用いることは、その予測に容認できない不確かさを含むので、行わないと決定した。強調されねばならないことは、このアプローチは、慎重なアプローチが習慣的にかつ意識して適用されてきている放射線防護の目的でLNTモデルを適用することとは何ら反しない。)

ちなみに原文(参照)では“models”と複数形にしているのは、モデルがLNTモデルだけでなく閾値モデルも含めてのこと。要は、どのモデルを使うか決められないほどそれぞれにおいて不確定だからだ。そのうえで、「放射線防護の目的でLNTモデルを適用することとは何ら反しない」と断っている。
では、「放射線防護の目的でLNTモデルを適用すること」とは、具体的にどういうことかと言えば、確率的影響、具体的には発癌リスクの増加を推測することで、許容量を決めることだ。他に何があるというのか。

65項 Therefore, the practical system of radiological protection recommended by the Commission will continue to be based upon the assumption that at doses below about 100 mSv a given increment in dose will produce a directly proportionate increment in the probability of incurring cancer or heritable effects attributable to radiation…
(したがって,委員会が勧告する実用的な放射線防護体系は,約100mSVを下回る線量においては,ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮定に引き続き根拠を置くこととする。(以下略)
66項 However, the Commission emphasises that whilst the LNT model remains a scientifically plausible element in its practical system of radiological protection, biological/epidemiological information that would unambiguously verify the hypothesis that underpins the model is unlikely to be forthcoming. Because of this uncertainty on health effects at low doses, the Commission judges that it is not appropriate, for the purposes of public health planning, to calculate the hypothetical number of cases of cancer or heritable disease that might be associated with very small radiation doses received by large numbers of people over very long periods of time.
(しかし,委員会は,LNTモデルが実用的なその放射防護体系において引き続き科学的にも説得力がある要素である一方,このモデルの根拠となっている仮説を明確に実証する生物学的/疫学的知見がすぐには得られそうにないということを強調しておく。低線量における健康影響が不確実であることから,委員会は,公衆の健康を計画する目的には,非常に長期間にわたり多数の人々が受けたごく小さい線量に関連するかもしれないがん又は遺伝性疾患について仮想的な症例数を計算することは適切ではないと判断する。)

つまりは、こういうことで、不確定要素が多いので、計算して公式見解を出しません、というだけの話だ。否定されるのなら、「LNTモデルが実用的なその放射防護体系において引き続き科学的にも説得力がある要素」などと述べる訳がない。非公式に計算して住民を引っ越しさせるかどうかの判断材料にするのは当然、「実用的なその放射防護体系」を利用してもいい。というか、しないと何のためにLNT仮説を放射線防護のために活用するのか訳が分からなくなる。国連の委員会も、将来的にデータが整えば、科学的データとして採用することもあり得ると託しており、日本がやるべきことは、LNT仮説を防護的に活用しつつデータを収集することだろう。
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