二酸化炭素排出の途上国へのアウトソーシング

温暖化新聞より

米国のカーネギー研究所は3月8日、多くの先進国における商品とサービスの消費に伴う二酸化炭素排出のうち、1/3以上が実際には国外で排出されているとの研究報告を発表した。米国や欧州諸国における二酸化炭素排出のほとんどが途上国、特に中国にアウトソーシングされているという。
研究チームは、2004年以降の貿易データを使用し、57の業種と113の国と地域を対象に、製品の流れに関する世界モデルを作成。炭素排出量を個々の製品と排出源に割り当てることで、各国が「輸入」あるいは「輸出」している正味の排出量を算出することができた。
この結果、欧州諸国で消費されている商品とサービスに伴う二酸化炭素排出のうち、1/3以上が国外で発生していることが明らかになった。スイスなどの小国では、アウトソーシングしている排出量が、国内で排出されている二酸化炭素量を上回る。米国では、消費ベース排出量のおよそ11%を、主に途上国へアウトソーシングしている。

原文:Carbon Emissions ‘Outsourced’ to Developing Countriesより抜粋。

The study finds that, per person, about 2.5 tons of carbon dioxide are consumed in the U.S. but produced somewhere else. For Europeans, the figure can exceed four tons per person. Most of these emissions are outsourced to developing countries, especially China.
1人当たりでアメリカは2.5トンの二酸化炭素を消費ベースで排出しているが、生産ベースでは外部で排出している。欧州では消費ベース排出は4トンを超える。そうした排出のほとんどは途上国、特に中国にアウトソーシングされている。

アメリカが世界の4分の1の二酸化炭素排出源国と悪玉扱いされているが、消費ベースでは実は欧州諸国の方がはるかに多いということになる。

“Just like the electricity that you use in your home probably causes CO2 emissions at a coal-burning power plant somewhere else, we found that the products imported by the developed countries of western Europe, Japan, and the United States cause substantial emissions in other countries, especially China,” says Davis. “On the flip side, nearly a quarter of the emissions produced in China are ultimately exported.”
一般家庭の電気消費がどこかの発電所からの石炭燃焼による二酸化炭素排出の原因になっているように、西欧や日本、アメリカのような先進国が発展途上国から輸入した商品が実質的には別の国、特に中国の二酸化炭素排出の原因になっている。裏返せば、中国で排出されている4分の1近くが結局輸出されていることになる。

まあ、今更言わずと知れたことで、当ブログでははるか以前に書いていたことなのだけれど、排出削減は国別対抗ワールドカップじゃないんだから。現在のCOPやポスト京都議定書の枠組がいかに本質的にナンセンスなものかが実感できるだろう。裏返せば、
中国の排出分の4分の1は実質的に先進国が排出していることになる。

The researchers point out that regional climate policy needs to take into account emissions embodied in trade, not just domestic emissions.
地域ごとの気候変動対策は国内排出だけでなく、貿易による排出を考慮する必要がある。

ところが、実態は排出の輸出入どころか、その貿易の過程である「京都議定書では国際船・航空のCO2排出は計算対象外」にされているのだから。実態はCOPでの先進国vs.途上国の対立も両者による八百長なのだ。

“This could be taken into consideration when developing emissions targets for these countries, but that’s a decision for policy-makers. One implication of emissions outsourcing is that a lot of the consumer products that we think of as being relatively carbon-free may in fact be associated with significant carbon dioxide emissions.”
各国の削減目標が広がりを見せている今、このことを考慮されてしかるべきだが、それは政策担当者の決断にかかっている。排出のアウトソーシングが示唆しているのは相対的にカーボンフリーと思いこんでいるあまたの消費財が実際には無視できない二酸化炭素排出に結び付いているということだろう。

つまり、2020年までに1990年比25%削減と鳩山イニシアチブを謳っても、それだけでは絵に描いた餅ということ。

“Where CO2 emissions occur doesn’t matter to the climate system,” adds Davis. “Effective policy must have global scope. To the extent that constraints on developing countries’ emissions are the major impediment to effective international climate policy, allocating responsibility for some portion of these emissions to final consumers elsewhere may represent an opportunity for compromise.”
どこで二酸化炭素を排出するかは気候には関係ないことだ。グローバルな視点がないと効果的な政策にはならない。途上国の排出が国際的な気候対策の大きな障壁となっているのならば、こうした排出の責任の配分は最終消費者に割り当てることが妥協点になるかもしれない。

という結論だが、これは計算が無意味に非常にややこしくなるだけだ。途上国が先進国のために排出している分は先進国が負担するが、途上国が途上国自身のために排出している分は見逃しましょうということになるのか、あるいは後者は自分で応分の責任を取ってくれということになるのか。
このレポートで抜けている重要な問題は、気候システムは排出場所だけでなく歴史的な排出の経緯も考慮してくれないということだ。従来の人間本位主義では対処できないところが通常の問題と異なるのだ。
どうして全世界一律に「炭素本位制ノート4〜森林保有は儲かる」のようなシステムに変えれば、途上国の権益が内部化されて妥協しやすいのだが。というか妥協相手は途上国ではなく自然そのものなのだ。
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