deadweight lossを「死荷重」と訳すのは間違い

la_causette:社会的なdeadweight lossって何?

ところで、「法務コストは社会的なdeadweight loss」って、「deadweight loss」という概念を勘違いされていませんでしょうか。

勘違いなんでしょうなあ。
大体、deadweight lossを文字通りに訳せば、「死荷重損失」になってしまい、それは逆にめでたいということになる。
元々のdeadweightの意味は、主に船舶用語で、船に積載した人員、貨物、燃料などの積載重量のことだ。比喩で負担しなければならない重荷のこと。
また物理学でいう「死荷重」とは、物体に働く力の大きさや向きが時間に関係なく一定な荷重の事で英語ではdead loadという。船に例えれば、deadweightの逆の自重のことだ。実際、自重という意味でdeadweightが使われることもある。もっとも船自体は動くから死荷重ではなく活荷重なのだけれど。
ところが経済学のdeadweight lossとは、

a loss of economic efficiency that can occur when equilibrium for a good or service is not Pareto optimal. In other words, either people who would have more marginal benefit than marginal cost are not buying the product, or people who would have more marginal cost than marginal benefit are buying the product.
Causes of deadweight loss can include monopoly pricing (see artificial scarcity), externalities, taxes or subsidies (Case and Fair, 1999: 442), and binding price ceilings or floors. The term deadweight loss may also be referred to as the "excess burden" of monopoly or taxation.

とあり、自由市場価格に税金や補助金が入った場合の生産者と消費者の逸失損得ということになる。言わば「積載重量損失」だ。ここで「積載重量」に相当するのは「社会的余剰」、社会的便益のことだ。とするとdeadweight lossとは「社会的便益の損失」ということになる。
それを「死荷重」としたら何のことやらさっぱりわからんことになる。大体、日本のエコノミストは英語の本来の意味も調べず物理学的意味も海事的な意味もごっちゃにしてテキトーに訳すので困ったものだ。ちなみに中国語では無謂損失となっており、「無意味な損失」という意味。まだこの方が誤解せずに理解できる。
「死荷重」なんてテキトーな訳だからこんな風にとかあんな風に誤用するテキトーエコノミストも出てくる。つまり、単に「死荷重」を存在しないに越したことのない存在と思ってしまうわけだ。「積載重量」を「存在しないに越したことのない」のなら船(=社会)は何のために存在するのか訳が分からなくなる。つまり、「船は空荷で航行するのが一番効率的だ」と言っているようなものだ。いや、燃料も死荷重だから、「航行さえしちゃいけない、船は貨物も積まず、動かさないのが最も効率的だ」と言っているのと同じになる。社会的文脈で言えば、国に納める税金も死荷重、国の制度の下にある弁護士も死荷重、ひいては国家さえ死荷重ということになってしまう。
一体何の効率性なのか、この時点でさっぱり分からなくなっているのだけれど、効率至上主義者にとっては「効率」そのものが自己目的であって手段じゃないのだから、そんなことどうでもいいんだろう。いつの間にか効率至上主義はへんてこりんな無政府主義だった、というのがオチだろう。
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